やぎ座
レイヤーを重ねていく
関係性の二面性
今週のやぎ座は、黒田三郎の「賭け」という詩のごとし。あるいは、生きる力を取り戻すよすがとして誰かを相対していくような星回り。
戦後まもなく出版された『ひとりの女に』という恋愛詩集は、みんなが飢えてボロボロだった時代に、復員兵として南方から帰り、ひどく荒んだ日々を送っていた作者が生きる力を取り戻していく過程が描かれた連作なのですが、その恋の相手について、作者は次のように書くのです。
「馬鹿さ加減が/ちょうど僕と同じ位で
貧乏でお天気屋で/強情で
胸のボタンにはヤコブセンのバラ
ふたつの眼には不信心な悲しみ
ブドウの種を吐き出すように/毒舌をまき散らす
唇の両側に深いえくぼ」
ここには一人の少女によって救われる異性の男として在りながらも、同時にそれをどこか突き放した目線で(父が娘を見るような)見ているようなまなざしが入り込んだ、ある種の二面性が言葉になって現れてきています。
6月21日にやぎ座から数えて「まなざしの相対化」を意味する7番目のかに座の初めで、日食と新月を迎えていく今のあなたもまた、誰か何かを特別に美化してしまう代わりに、できるだけありのままに見つめていけるかどうかが試されていくように思います。
不均衡を超えて
人間関係における真の勝者とは、決して相手を自分に従わせたり、敵をただ完膚なきまでにやっつけてしまう者のことではありません。
『トムとジェリー』に登場する、ネズミと一つ屋根の下に暮らすネコにしても、何らかのアクシンデントで二人の追いかけっこが中断すれば先に相手に攻撃させてから再開させようとするし、相手が本気で苦しがれば救急箱を持って駆けつけ、時には休戦して一緒に出かけることさえありました。
ネコにとって獲物である以上にライバルでもあるネズミとの追いかけっこは、最上のライフワークであり「生きがい」だったのです。
人間同士の関係というのはどんなに小さな差であろうと、どちらが上か下か、惚れた側か惚れられた側かの不均衡が必ず生じ、それがまた相手に惹きつけられる引力となっていくものですが、今のあなたには勝ち負けやしがらみを超えて自分の全力をぶつけていきたいと思えるような相手はいるでしょうか?
もし心当たりがあるのなら、どれだけ複数のレイヤーや視点でその相手と対しているか、改めて見直してみるといいかも知れません。
今週のキーワード
黒田三郎『ひとりの女に』