やぎ座
不条理との向き合い方
生命の声
今週のやぎ座は、村上春樹の「ニューヨーク炭鉱の悲劇」という短編作品のごとし。あるいは、訳の分からないものを訳の分からないままに受け止めていくこと。
この短編は1960年代に活躍したビージーズの同名の曲の歌詞にひかれて書かれたとされている作品ですが、ニューヨークに炭鉱はありませんから、これは当時のアメリカによるベトナム戦争についてのあれこれをニューヨークに置き換えているのでしょう。
作品の最後の方には、曲のもととなった1966年のイギリスのマーシル・ヴェール炭鉱で起こった落盤事故で生き埋めにされた人々の、次のようなやり取りが出てきます。
「空気を節約するためにカンテラが吹き消され、あたりは漆黒の闇に覆われた。誰も口雄開かなかった。五秒おきに天井から落ちてくる水滴の音だけが闇の中に響いていた。
「みんな、なるべく息をするんじゃない。残りの空気が少ないんだ。」
年嵩の坑夫がそう言った。ひっそりとした声だったが、それでも天井の岩盤が微かに軋んだ音を立てた。坑夫たちは闇の中で身を寄せ合い、耳を澄ませ、ただひとつの音が聞こえてくるのを待っていた。つるはしの音、生命の音だ。」
事故というのはそれが大規模なものになるほど、とつぜん起きた事態のように感じられるものですが、この作品はどこか私たちがいま生きている世界の非現実感や不条理さと重なっているように感じられます。
23日にやぎ座から数えて「再誕」を意味する5番目のおうし座で、新月を迎えていく今週のあなたもまた、まさにそうした不条理さに巻き込まれた坑夫のごとく、雑音に耳を貸すのではなく、ただ生命の音に集中していきたいところです。
血まみれの平和か、必要かつ最低限の戦争か
「同じ人間、話せばわかりあえる」という考え方がありますが、こういう主張を真面目に信じているような類の人間が、実はいちばん一番戦争を生んでいる元凶なのではないでしょうか。つまり、彼らの主張が相手に通用しないとき、「話しても分かりあえないから人間ではない。だから殺してよい」と声高に主張するようになっていき、相手の言い分だけでなく、その存在までも切り捨ててしまうのです。
その意味では、先ほど引用した年嵩の坑夫が発した「ひっそりとした声」というのは、示唆的です。
平和への道が、結局は「異質な、分かりあえそうもない存在と、どうやって関わっていくべきか」を考え、現実的に対処していく先にしか開かれていないように、あなたの場合も、今週というタイミングで、自分とは異質な考え方や苦手だと感じる相手との関わりあいをどのように持っていくことができるか、ということが今後の明暗を分ける。そういうこともあるのだ、というつもりでどうか今週を過ごされてみてください。
今週のキーワード
窒息しそうな状況下で