かに座
潔さと成熟
きっぱりさっぱり
今週のかに座は、「菜の花を挿すか茹でるか見捨てるか」(櫂美知子)という句のごとし。あるいは、空回りであれなんであれ、きっぱりと態度を示していくような星回り。
菜の花と言えば、山村暮鳥の「いちめんのなのはな」のように、古来から無数の菜の花をひとつの黄金世界として捉える向きが強かったのですが、掲句ではわずか2、3本の菜の花に着目していて、そこがまず新しい。
さらに心奪われるのは、最後にくる「見捨てる」という力強い表現。花瓶に挿すか、お浸しにして食べるために茹でるか。ここまでは凡人の感覚だ。「見捨てる」というのは、たんに見すごすのではない。
相手の状態がどうであれ「我に関せず」を貫かんと、冷たく相手を突き放す一語であり、これがもし相手が人間であれば冷酷とさえ言える態度でしょう。
しかし幸いというか、相手はこちらがどうあろうと気にする風でもない菜の花であるところが滑稽味を感じさせる。
それを「空回り」と揶揄する人もいるかも知れないが、それでも掲句には作者の颯爽とした潔さも感じられ、それが立派に魅力となっている。
今週のあなたもまた、日常のどこかで力強い言葉を突きつけていくことを通して、これまでにない魅力を発揮していくことができるでしょう。
喪失と始まり
ふつう人は、自分の人生が破綻することを不幸なことだと思っていますが、不幸と真実はコインの裏表のようなものだということも忘れてはなりません。
生が破れ、何かしら喪失していった時にはじめて、この世のほんとうの姿を垣間見、そこで人間とは何かということを少しだけ悟るのです。
ただし、せっかく人間に生まれながら、人間とは何かということを知らずに、人生を終えてしまう人間が世の9割である、といっても言いすぎではないでしょう。そういう小利口な人間になることを、日本人はいつから大人になるとか、成熟と呼ぶようになったのでしょうか。
小利口をやめるには、子供にならうのが一番です。子供にならって、喪失を経験していくとき、そこから本当の意味で人生は始まっていくのかもしれません。
今週のキーワード
小利口な人間