かに座
広場の孤独
タイムマシンとしての聖地
今週のかに座は、「小夜ふけて窃(ひそか)に蚊帳にさす月をねむれる人は皆知らざらむ」(長塚節)という句のごとし。あるいは、汲み尽くせない思いをひとり静かに引き出していくような星回り。
家族がすっかり寝静まった頃、作者はひとり目覚め、どこからかさしこむ月光と時おり風に揺れる蚊帳を仰ぎみる。そしてこんな光景を、他の誰も知らないんだなと、なんとなく可笑しい気分になりつつも、そっと胸にしまいこんでいくのだ。
とはいえ時はすぐに流れ、その時しまいこんだ思いも忘れ去られる。けれど、心許ない人の気持ちと違い、ものは風情を宿すもの。再び夜にひとりで蚊帳を仰いだそのとき、作者はきっと何かを思い出すでしょう。
今週のかに座には、どこかでそんな作者の姿が重なっていくようです。自分だけの時間、自分だけの聖地。そんな贅沢を自分に与えていく充電作業をしてみるといいかもしれません。
この世に自分ただひとり
掲句はどことなくかぐや姫の境遇を思わせますが、似た感慨を覚えさせる詩に次のようなものがあります。
「他所者であるおまえ、
ほかの星よりなほ遥かから由来する
星であるおまえ。
孤独が受け継がれるようにと
この地球に売られた星。」
(ネリー・ザックス、「星の蝕」)
まるでよそ者のような所在なさや孤独感。しょせんは自分の中のみんなであり、死ぬときはひとり、何も持たずに宇宙へ帰っていく。この世には、自分ひとりしか存在しないのだ。
だからこそ、「人からどう見られるか?」という基準ではなく、「どんな自分を見ていきたいか」という基準でこの世での自分を演じていくこと。その限りにおいて、ひとり静かに引き出された思いは、あなたの中で生き続けていくはずです。
今週のキーワード
かぐや姫