かに座
新たなものの到来
何かがどこからかやってくる
今週のかに座は、『ひらひらと月光降りぬ貝割菜』(川端茅舎)という句のごとし。あるいは、異界とのふれあいがおのずと喚起されていくような星回り。
「貝割菜(かいわりな)」は大根やカブの苗が萌え出て双葉になったもので、採光や通風をよくするために密集しすぎないよう間引き食用とされ、昔から、みそ汁やお浸しの具材として日本人の食卓にのぼってきました。
掲句では、そんな日常使いするようなごくありふれた葉野菜が主題となっているのですが、そこに取り合わせとして添えられた月光を「ひらひらと」という異様な状態副詞で描いてみせることで、まるで地球に初めて降りてきた異星人の目で見るような感覚に陥っていくはず。
こういう感性の在り方を「遊び心がある」などと言ってしまえばそれっぽく理解できた感じになりがちな訳ですが、その根底にはあるのは異界(月世界)とのふれあいなんです。
王朝時代には宮廷の清掃と舗作りをつかさどる掃部(かもん)という役職がありましたが、これはもともと上代においては蟹を扱う役職でした。太古の日本では出産する場所に蟹の呪術を施し、婚礼の祝物にしていたそうですが、出産は全く明かりを閉鎖した室(ムロ)の中で行われ、そこに遠い異界から新しい生命が到来するものと考えられていたんですね。
その意味で掲句の作者の感性というのも、どこかでそういう古代的な世界観や生命観とつながっているものと捉えたほうが、しっくりくるように思います。
同様に、9月18日にかに座から数えて「神殿」を意味する9番目のうお座で中秋の名月(満月)を迎えていく今週のあなたもまた、どこか遠いところから身近なところへと新たな可能性の息吹が吹いてくるのを感じていくことができるかも知れません。
電光のなかの全裸人間
人や物が大いに動く「あきない」を語源にもつ「あき」に季節が移ってくると、高く澄んだ青空が身近に感じられて、まるで、通り抜けられそうに感じられてくることがあります。
自分が空の向こう側の世界へ突き抜けてしまうのか、それとも、青空を突き抜けてこちらの世界になにか未知のものがすっと訪れてくるのか。そういえば、ターミネーターもそんな感じで、ゴミの散らばった路地裏にまばゆい電光とともに何の脈絡もなく降り立ったものでした。
映画の内容を知っている人であれば、アーノルド・シュワルツェネッガー演じるその筋骨隆々の全裸男が、人類と機械が熾烈な戦いを繰り広げられている近未来において、人類反乱軍のリーダーとその母親を抹殺するため、過去世界へ転送された殺戮マシーンであることは知っているでしょう。
とはいえ、それもすべては後付けに過ぎず、当のその瞬間には、ただ全裸男が突然そこに出現しただけだったはず。そしてそうしたマインドの在り方こそ、異界とふれあっていく上で必要不可欠な要素なんです。
今週のかに座もまた、過去や未来の「いつかどこか」のために日々現在をやり過ごしているいつものモードから、<今ここ>の瞬間に集中するモードへと一時でも切り替えていくことがテーマとなっていくことでしょう。
かに座の今週のキーワード
瞬間という聖地