かに座
しぶといぞ私は
命脈をつなぐ
今週のかに座は、『月下美人あしたに伏して命あり』(阿部みどり女)という句のごとし。あるいは、「はかない」よりも「しぶとい」自分自身の姿を見出していくような星回り。
月下美人は毎年夏の夜のあいだの数時間だけ、白く大きな神秘的な花を咲かせることで知られており、その開花した姿は思わず息をのむような雰囲気を漂わせています。
掲句では、そうして開いた花が、「あした(朝)」が来ればがっくりと首を折るようにしてうなだれ、終わってしまうさまについて詠まれています。そう聞くと、年齢が若ければ若いほど、なんだか物悲しく哀れに感じてしまうかも知れません。
一方で、作者はこの時すでに90歳であり、そうして花がしぼんで外見が衰えてもなお、枯れてしまうことなく、しぶとく命をつないでいく月下美人に、深いシンパシーを感じているのではないでしょうか。
また、月下美人については昔から「一年に一度しか咲かないまぼろしの花」などとも言われていますが、実際にはまったくそんなことはないらしく、一つの株から複数花が咲いたり、連日花を咲かせることもあるのだとか。
こうした月下美人をめぐる言説と実態は、傷つきやすい繊細さと、やたらと行動力のあるエネルギー過多ぶりという相反する要素を併せ持つかに座の特徴とよく重なっていくように思います。
7月6日に自分自身の星座であるかに座で新月(種まき)を迎えていく今週のあなたもまた、年々増していくようにすら感じられる自分自身のしぶとさや生命力に、改めて感じ入っていくことになるかも知れません。
才能から素朴へ
芸能界であれ、文芸の世界であれ、どんなジャンルであっても、一瞬の輝きを放った後に表舞台から消えてしまう“才能ある新星”という存在は、いつの時代も後を絶ちません。
それは他の誰もやったことのないユニークな試みというのが、ギリギリまで追い詰められた個人から発されたケースであり、これはある意味で、今のかに座が目指しつつある方向性とは真逆のものと言えるでしょう。
例えば、山梨の山中に暮らし俳句を作り続けた飯田蛇笏や、地元の秩父を愛した俳人の金子兜太のように、自分に合った土地とつながり、その土地の力を直接を受けて原動力にできた人というのはやはり理屈を超えた強さがありますし、小手先の方法論に頼る他ない人間と比べて、活動の息も太く長いものになっていくように思います。
「他にはない華がある」「才能がある」「光っている」など、そうした使われる誉め言葉に自分を重ねていこうとするのはもうやめましょう。
今週のかに座は、たとえどんなに不器用で素朴なものであっても、泥臭く自分の日常を掘り下げていくことの大切さが、身に沁みてわかっていくタイミングなのではないかと思います。
かに座の今週のキーワード
定住場所の地層を掘り下げる