かに座
虚実の妙
寄せては返す波のように
今週のかに座は、「かわるがわる」という言葉のごとし。あるいは、木と木のあいだにあるものを見つめることで、森を知っていこうとするような星回り。
医者が病名を決めないと安心できないのと一緒で、私たち近代人というのは、疑わしい人間が2人いれば、どうしてもどちらかがクロでどちらかがシロだと決めないと安心できないようにできています。
これは一体何だろうと不安になっていたとしても、とりあえず「風邪ですね」と答える。患者のほうはそれで安心する訳ですが、本当のところは医者がいちばんわからないときに言う答え方なんですよね。
でも、本当のところをそのまま言ってしまっても、患者は受け入れられない。あれか、これか。クロか、シロか。その二者択一だと思いすぎてしまうし、逆にそのどちらも真であるかもしれないということに思い至ることができない。
実際には、あれかこれか、クロかシロかはいつでもふとした拍子に返っていくものであり、見方によっては、寄せては返す波のように、「かわるがわる」起きていくものなんです。強いて真理がどこにあるかと問われれば、「かわる」と「がわる」の間にあるということになるのではないでしょうか。
その意味で、6月14日にかに座から数えて「コミュニケーション」を意味する3番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、いったん落ち着いていた答えがひっくり返って、問いや謎が深まっていきやすいでしょう。
「虚に居て実を行ふべし」
これは俳句の根本を端的に示した芭蕉の言葉で、「虚」とは事実に対する虚偽であり、現実に対する空想のことで、普通に解釈すれば「作品の上にありもしないことを描き、想像の世界に人を導き、事実であるかのごとき錯覚を抱かせよ」という意味になります。
ただ、恐らくこれは単に虚=嘘を重んずるという話ではなく、言ってみれば人間の存在自体がもっとおおきな「虚」に浮かんでるんだから、そのおおきな「虚」の感覚を持って「実」を詠まないと、ほんとうの「実」なんて生まれこない、という話でしょう。
このことはその反対の状態、すなわち、最近のエビデンス・ブームや事実(ファクト)にとらわれながら、すなわち必然性にガチガチに固定された状態で人が想像力を羽ばたかせられるかを考えれば、よく分かるはず。
したがって、実際に私たち「虚にいて実をおこなう」とき、そこでの虚というのは「ほんとうの実」へいたる架け橋であり、単なる事実を超えたより深い実への弾性を秘めたジャンプ台となっていく訳です。その意味で今週のかに座もまた、そうした「虚実の妙」ということが鍵になっていくでしょう。
かに座の今週のキーワード
どんでん返し