かに座
とっておきのエグい一枚
煩悩の重みをはかる
今週のかに座は、『をんなわれを風呂に沈めて恋の猫』(加藤直子)という句のごとし。あるいは、求愛ということをまっすぐに追求していこうとするような星回り。
卓抜なテクニックというのでも、高邁な詩境というのでもない、ただただみずからの中に根深く宿る女性の業(ごう)のようなものを、真っ正直な図太さによってつかみだしてみせた一句。
「をんなわれ」とずばりと言い切ってみせてから、ざぶりと浴槽にそれを沈める。そこで沈んでいるのは、洗ってもすすいでもいっこうに消えても軽くもなってくれない、煩悩の実体そのものの重みであり、そこにたまたま窓の外からから聞こえてきた恋猫の声がよくしみ通った。つまり、それは同時に自己の内側から漏れ出てくる声なき声でもあったのでしょう。
それが大人の情念、嘘いつわりのない女性としての胸の内だというのなら、それもまた大事な生身の一瞬なのであって、たとえどんなにみっともなく、情けないものであっとしても、とってつけたかのような正しい政治的物言いで武装するよりも、それをそのまま詠んでしまった方がよっぽど真実味があるというもの。
人間の送りうる最も人間らしい生きざまとは、ただそうした小さな真実をひとつひとつ積み上げていくという形でしかありえないのではないでしょうか。その意味で、2月14日にかに座から数えて「関係の深まり」を意味する8番目のみずがめ座で火星と冥王星とが重なって「性的なパワー」が強調されていく今週のあなたもまた、まずは自身の煩悩の重みをはかっていくところから始めてみるべし。
人生という紙芝居
おそらくほとんどすべての大人というのは、純粋に誰か他の人のためにみずからの人生を教訓として話して聞かせられるほどの「好々爺」にも成りきれず、かといってもう決して純粋な期待を人生に寄せられるような「子供」ではありえない、じつに宙ぶらりんな場所に立っているはず。
それは、自分の中のさまざまな欲望にまだまだ無自覚であるということです。好々爺だって、若い頃は悪いこともしたかも知れませんし、そうでなくても欲をかいて失敗したり、どこかに未練を残してきたこともあるでしょう。そうした人生の破れ目や曲がり角を通じて、それまで誤魔化していた自分の欲望をひっくり返され、見つけていったのです。
例えるなら、自分のなまなましい欲望を見つけるとは、人生が紙芝居になったとして、そこにはどんな一枚、どんなエグいワンシーンが足りていないのかを自覚することに等しいのではないでしょうか。
今週のかに座もまた、そうやって自分という紙芝居をもう一度めくり直していく中で、うまくいけば「自分の望み」と自覚的に付き合っていくヒントを見つけていくことができるはずです。
かに座の今週のキーワード
本心からの望みはなまなましい