かに座
地上の宴
本当の滑稽
今週のかに座は、『ルンペン氏わらひのぞける冬夜宴(やえん)』(河野静雲)という句のごとし。あるいは、人生に必要な笑いやおどけを見定めていくような星回り。
作者は時宗の僧侶で俳人でもあった人。掲句の大意としては、寒さの厳しい冬のある夜、寺院の一角で一時的に夜露をしのいでいるホームレスが何人かで集まって、宴会に興じている。その様子の、なんと無垢で、楽しげなことよ、といったところだろうか。
そうした光景を映す心の眼は、すべての人間を静かに見つめていながらも、冷酷な光ではなく、どこか温かい人間がその奥にいる、世の生活に徹した人間の眼である。
作者の句集の他の句にも目を通してみると、世俗に深く身を浸していった小林一茶的なものを感じるが、一茶がときに露悪的とも言えるほどに自己を投げ出そうとしたのに対して、作者はあくまで人びとをじっと見続けるばかりで、自分の淋しさだとか、嬉しさとかいう心をあまり出さない。
あくまで知らぬふりをしてはじっと目を注ぎ、さまざまな思いを裏に秘めつつも、その俳号があらわすように、表面にはただ静かにありのままの世界の姿を描いてゆく。こういう人物に触れていると、本当の滑稽というのは本当に厳粛な人にしか生じえないのかも知れないという思いが強くなる。
2月3日にかに座から数えて「愛情表現」を意味する5番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな厳粛と滑稽とがしずかに手をとり合っていくような感覚に感じ入っていくべし。
雲をとりのぞく
もし見ているだけではたまらなくなって、中途半端に手や口を出して介入してしまいたくなった時は、いったん深呼吸でもして、次のような一節を思い出してみるといいでしょう。
雲は知っていない、
なぜ、この方向に
このスピードで動いていくのかを
知らない。
しかし、空はすべての雲の秩序を把握している。
君達にもそのことがわかるだろう。
地平線の向こう側が見える程の
高みに立った時には。
(リチャード・バック、『イリュージョン』)
雲が地上の存在たちをじっと眺め、把握している以上に、はるかなる空は「雲の秩序」を把握しており、地平線のずっとずっと向こう側まで突き抜けた真っ暗な宇宙空間から振り返れば、無数の雲と地上の存在たちは1つの惑星としてまなざしに映りこんでくる。
おそらく、「本当の厳粛」というものの大元には、いつだってこの宇宙的な闇の感覚が広がっているはず。今週のかに座もまた、そうした視点から愛すべき地上の「宴」を眺め尽くしていくべし。
かに座の今週のキーワード
宇宙空間から眺める