かに座
自主的な脱・奴隷化
合法の雇用なんて選ぶな
今週のかに座は、「水夫になるな、海賊たれ」という指針のごとし。あるいは、「海賊稼業」を可能にするだけの確かな規律と掟をおのれに課していこうとするような星回り。
18世紀前半までの大航海時代最後にして最大の海賊とされるバーソロミュー・ロバーツは、海賊ではなく合法の雇用を選ぶ水夫のことを“あんぽんたん”だと言っていたのだそうですが、それにはきちんとしたワケがありました。
正直な海運では、共用部分も少なく、賃金は低く、労働はつらい。こちらでは豊富で満足、快適と安楽、自由と権力がある。そして、それに対する危険といったら、最悪でもしばらく絞首台を眺めるくらいとなれば、こちらのほうに天秤を傾けない者があるだろうか。いやいや、太く陽気な人生こそが我がモットーである。(ピーター・ T・リーソン『海賊の経済学ー見えざるフックの秘密ー』)
続けて、リーソンは当時の海賊の実態について、明らかに今日でいう“ブルシット・ジョブ(=やりがいを感じない、ムダで無意味な、または有害な仕事のこと)”に従事している労働者と比較しつつ、次のように書いています。
商船よりも海賊を選ぶにあたり、一部の船乗りにとってはかなりの分捕り品が得られるという見通し以外にも、実利的な要因があった。船の労働環境も、その決定には重要な役割を果たした。長距離航海する商船は、何カ月も海で過ごす。したがって、船乗りが雇用の意思決定を行う時の「福利厚生パッケージ」の重要な一部は、そうした船舶上の暮らしがどんなものか、と言うことだった。小心なせいか、海賊稼業に残念ながら乗り出せなかった船乗りにとっては、商船は相対的に金銭的な支払いも少ない上に、不快どころか悲惨な労働条件が伴うのだった
この時代、荒くれ者の海賊にも船長ごとに取り決めた掟があり、現代の私たちがイメージするほど無軌道な者はまれで、中でもロバーツの掟は厳しいものだったそう。その意味で、5月20日にかに座から数えて「望ましい社会生活」を意味する11番目のおうし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、どうしたら自分もよき海賊になれるか、そのためにはどんな決めごとが必要となるか、試行錯誤してみるといいでしょう。
海賊なりの秩序
単なる無法者集団と思われがちな海賊たちは、実際にはメンバー全員の合意に基づく厳格な掟を持ち、もめ事は極力起こさず一致団結して行動していたことが分かっていますが、海賊の船長もあくまで選挙で選ばれ、あんまり横暴だったり無能だったり臆病だったりするとすぐに解任されてしまったのだそう。
例えば、海賊というと残虐非道なサディスト揃いというイメージがありますが、戦闘行為や拷問を行うにはそれなりの理由が必要であり、悪質な行為を働いた者には、たとえそれが船長であっても「正義」の制裁が行われましたし、船には原則的に女性や少年は乗せてはいけない決まりでした。
そもそも、彼らはみずからの意志で海賊にならんとして入船した志願者しか仲間に加えず、実際、船乗りから海賊へ転向しようとする率も非情に高かったそうです。また、その際、肌の色が問題にされることもまずなく、黒人も少なからずいて、他の仲間と平等に扱われていたことも分かっています。
とはいえ、ここでしたいのは海賊って実は悪党どころかすごい良い人ばっかりだったんだ!という話では全然なく、彼らはあくまで利益を最大限にしようとした結果、こうした一見先進的で良心的な共同体を一時的にであれ作り出し、高いパフォーマンスを発揮していくことができた、という話です。
彼らと同様、今週のかに座もまた、現行の資本主義社会が多くの労働者にもたらしている「働いても働いても生活が楽にならない」という状況をどう打開していくのか、ということが大きな焦点になっていくでしょう。
かに座の今週のキーワード
グレーゾーンで暗躍する