かに座
思考以前の世界
風がよぎると動き出す
今週のかに座は、「死者からの付箋」を受けとっていくよう。あるいは、正解や方程式から始めるのでなく、まず飛び出してくる「振る舞い」に浸りきっていくような星回り。
作家や歌い手、絵描きや新政府内閣総理大臣など、マルチな活躍を続ける坂口恭平は『現実脱出論』のなかで、時どき頭のなかをよぎり、自分を突き動かしたり、ひとつの詩や音楽やビジョンになっていく「風」のようなものを「死者からの付箋」と呼んでいました。
それは「太古からの人類の本能のようなものが伝達されている瞬間」であり、「突然どこか異国のラジオの電波が間違って入り込んだような感触」とともに訪れ、坂口の場合はそれが自分を貫くと「言葉にしたいというエネルギーを持」ち、「勢いよく歩いたり、人とより会おうとしたりする」のだと言います。
そして、「機が熟すると台所へ向かい、妻の前でああでもない、こうでもないと振る舞いはじめる。体をひねる。壁に頭をぶつける。手を伸ばす。貧乏揺すりをする。そうこうしていると、少しずつ、蛇口から水が出るように言葉が出てくる。」
坂口はそこに「演劇の起源」を見て取る。通常はまず台本があって、そのセリフを覚え、それを演技にする訳ですが、この順序を逆にして、まず何かを察知した人間が唐突に動き出し、言葉にならない音を発しつつ、次第次第にそれが一つの定まった動作となり、バラバラだった音が音楽になっていき、やがて判別可能な意味が宿ってくるのだと。確かなことは、「言語の前に、まずは振る舞いがあるのだ」ということ。
2月14日にかに座から数えて「感動」を意味する5番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、周囲に怪しまれようと邪険にされようと、皮膚で感じとった何かがあるのなら、まずは体を動かし、よじり、ふるわすことを大切にしていくべし。
「ながら族」をやめる
そうしてただ「振る舞い」に浸り切っていると、なぜこんなことで感動しているんだろう?と不思議に思うかもしれません。けれど、気付いてないだけで、「純粋に〇〇する」ということを私たちはほとんどしていないんです。いつも、テレビを見ながら、携帯をいじりながら、友達や家族としゃべりながら、何かをすることに慣れ過ぎていて、「~~しながら〇〇する」以外の行動の仕方を忘れてしまっている。
今週のかに座は、どこかでいつも通りの「ながら族」をいったんやめてみることで、なにげない行為ひとつとっても、その前後、その最中に何が起きているのか、何を自分が感じているのか、改めて気が付いていくことができるはず。
そのとき、あなたの中で「食べる」とか「歩く」といったごく日常的な行為の意味そのものが根本的に変わり、その感覚は揺らぐことのない心理的基盤となっていくことでしょう。
かに座の今週のキーワード
純粋行為批判