かに座
理性を耕していく
おかしいから笑ふよ
今週のかに座は、『おかしいから笑ふよ風の歩兵たち』(鈴木六林男)という句のごとし。あるいは、狂った社会のなかで健全な理性を取り戻していこうとするような星回り。
作者は、中国、フィリピンを一兵士として転戦した戦争体験者であり、掲句もまたその際の体験を句にしたものでしょう。
「おかしいから笑ふよ」というのは、日常であればごく当たり前の反応ではありますが、人の死がごく日常となり、まともではいられなくなってしまいがちな戦場においては貴重な反応であり、何より理性がまだ残っている確かな証しと言えます。
戦場でもおかしいことはあり、ふと笑いを誘われることがある。そして、こうして理性を保ちつつ、日常的になっていきつつある死と向きあわざるを得なくなっていくことこそが戦争の本質であり、それは人間が経験しうるあらゆる体験のうちで最も残酷なものの一つであると思います。「風の歩兵たち」というのも、半ばまでは狂気に犯され、死の領域に踏み込んでしまっているようにも読めます。
同様に、1月23日にかに座から数えて「健全化」を意味する11番目のおうし座で約5カ月間続いた天王星の逆行が終わって順行に戻っていく今週のあなたもまた、みずからの日常を目に見えない戦場と見なし、ふとしたことで笑える有難みを噛みしめていくべし。
受け入れることから始める
戦場と同じくらい、いつ気がふれてもおかしくない状況に陥った例としては、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』が挙げられるかも知れません。
主人公は、難破船のたったひとりの生存者として不毛な無人島に流れ着き、途方もない不安に襲われるものの、船内で見つけたペンと紙で現状の「よい点とわるい点」を書きつけることで、人生を変える事実を発見します。つまり、デメリットとメリットは相殺されており、これ以上にひどい状況は想像できなかったため、次のように結論づけたのです。
世の中にこれほど悲惨な状況はないという場合でも、そこには何かしら……感謝すべき好ましい点が存在する
彼はその後、狩りをし、ヤギを飼い、穀物を育て、オウムをペットとし、鍋をつくるなど、自給自足のエキスパートになり、その島で28年間暮らしました。おそらく、そこでの暮らしの中でも、ふと笑いを誘われることもあったでしょう。それは彼が認めざるを得ない現実を受け入れ、やるべきことを明確に把握していくことでつかみとった成果なのだとも言えます。
今週のかに座もまた、そんな彼らのごとく、普通なら笑えない状況にあっても、なんとか活力と希望を燃やし、心から笑えるだけの精神の健全化をはかっていきたいところです。
かに座の今週のキーワード
直面している現実を受け入れ、整理することから始める