かに座
人生は短く、芸術は長い
「独特」の境地
今週のかに座は、「独特老人」という言葉のごとし。あるいは、大いなる自然のごとき存在となることを目指していこうとするような星回り。
おりしも日本社会は、ますます「成長」から「成熟」へ、少子高齢化社会へと突き進んでいるところですが、編集者の後藤繁雄によるインタビュー集『独特老人』(2001)には、水木しげるや淀川長治、堀田善衛、大野一雄など錚々たる顔ぶれが並んでいます。
しかし、インタビュアーの後藤は文庫版のあとがきで、この本に登場した人は「『一流』とかではなく『破格』である」と述べ、「これから日本がむかえる老人社会のモデルになるとは言えないかもしれない」と続けつつも、彼らにたくさんのことを教わったという。
本などなくても、家などなくても、金などなくても、何もなくても今喋り、今考え、今笑うことから始めればいいということ。世界とちゃんとつきあえば、向こうの方から秘密を教えてくれるのだということを。
そして「独特」という言葉に込めた次のような意味を語っている。
独特とは、円満な境地には現れない。むしろ「奇」「狂」「偏」の中にこそ現れる。したがって彼らは皆「野」の人である。通俗的な「権威」「名声」とは無縁、それらを超えている。たとえ評価が得たとしても、結果に過ぎず、すぐさま破り捨ててしまう。手が付けられないのである
10日にかに座から数えて「社会的到達点」を意味する10番目のおひつじ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな「独特」の境地へと自身のキャリアがいかに繋がっていけるかということを考えてみるといいでしょう。
海の老人
誰もが知っているだろう「独特老人」としては、例えばヘミングウェイの『老人と海』に登場する漁師の老人サンチャゴが挙げられます。
彼は周囲からすっかりオワコンだと思われていた訳ですが、物語の最期には見事巨大カジキをつり上げ、その成果(骸骨になってしまいましたが)をもって港に凱旋してきました。その一幕は彼に憧れを抱き、みずから助手を買って出た少年にとっても、さながら聖人を描いた宗教画のごとく忘れがたい光景になったはずです。
じつは『老人と海』には、老人サンチャゴをどこかイエス・キリストと二重写しに描く意図を明らかにしているような表現がいくつか出てきます。出港から沖合での巨大カジキとの死闘を経て帰港するまでの期間が3日間だったのも、「死と三日後の復活」と重ねられている訳です。
あなたの中の不器用にしか生きられない部分が、何に対して、何のために命を賭けようとしているか。その動機付けに応じた「復活」はどんなものとなるか。今週のかに座もまた、自分なりに思い描いてみるといいでしょう。
かに座の今週のキーワード
純粋であること