かに座
二度と失いたくないもの
同じ符牒の感応
今週のかに座は、ノヴァーリスの「青」のごとし。あるいは、同じ符牒の価値を知っているものと繋がっていこうとするような星回り。
ノヴァーリスは『青い花』という小説において、自身のうつしみである主人公が夢に見る憧れの花であり、追い求める詩的なイメージの象徴に「青」という質感を与えました。それはメーテルリンクの『青い鳥』の同じく、私たちが普段浴びている光とは違う、もうひとつの世界のそれの符牒として思い描かれている訳ですが、メーテルリンクがそのお話を書くきっかけになったのは、皆既日食の体験だったそうです。
皆既日食を一度でもなまで見たことがある人なら分かると思うのですが、“そのとき”が近づいてくると、ほんとうに昼でもあたりが暗くなってきて、ダリやキリコなんかの絵の世界に変わって、濃紺の空に真っ暗な穴があいて、その周りで星がギラギラ輝き始めるのが見えて、これは何なんだと声にならない叫びをあげるしかなくなってしまう。
それはある種の宗教体験とも言えますし、中世や近世では皆既日食を体験して実際に狂ってしまった人も多かった。そして問題はその後です。人間は過去と未来と現在が一度に凝縮されたような圧倒的な体験をしてしまうと、そこから何を体験しても、あれほどの体験は他にない、という虚脱状態に陥り、やがては「すべては仮象にすぎない」というところまで行き着いてしまう。
そんな中、ノヴァーリスやメーテルリンクといった人たちは、そうしたかつて自分が体験した圧倒的な体験へと通じる手がかりとして、同じ「青」を符牒として用いた訳です。
5月9日にかに座から数えて「実質」を意味する2番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな彼らのように自分が追い求めているものの符牒を何がしかの形で共有していくことがテーマとなっていきそうです。
「再統一」に向けて
2世紀ローマの哲人皇帝マルクス・アウレリウスは、自ら書き残した『自省録』において、まずこの宇宙について、一なる魂をもつ一つの生き物として考えよと述べます。
さらに、万物がどのようにして一なる感性に帰っていき、またどのようにして一なる欲求からあらゆることをなすに至ったのかを考えよ、と。つまり、彼にとってこの宇宙とは、赤ちゃんにとってのお母さんのおっぱいのように、自己をそこから切り離してはならない、すべての根源でありました。そして、そうした宇宙観に立った上で次のように言うのです。
おまえは、あの宇宙の本質的な統一から、どこかに自分を投げ出してしまったのだ
いつだって私たちは、何かを失ってからしかその大切さに気付くことができません。ただし、人間には喪失と同時に、再び自らの統一を取り戻していく上で、「青」のような手がかりも与えられています。二度と失いたくないと心から思えるものは何か、今週のかに座はきちんと心に問いかけさせすれば、それがはっきりと浮かび上がってくるはず。
かに座の今週のキーワード
青い鳥はどこにいた?