かに座
過去、未来、同時代
導きの糸としての田螺
今週のかに座は、『田螺とは谷間(たにあい)をゆく旅人なり』(中田剛)という句のごとし。あるいは、自分が望む未来へと導いてくれるだろう偶然に賭けていこうとするような星回り。
いつごろからか田んぼや小川から消えてしまいましたが、むかしのわらべ歌などにも歌われていたように、「田螺(たにし)」はかつては日本各地の田園地帯で、水底をゆっくり歩ている姿を見かけたものでした。
作者はそうしてたまたま目にした田螺を、作者は「谷間をゆく旅人」になぞらえた訳ですが、田螺は単に水辺を移動していくだけでなく、水を浄化する優秀な機能をもった巻貝でありました。
つまり、田螺がきれいにした水が田んぼ中を流れ流れておいしい米ができ、それが人びとの口に運ばれ、連綿といのちが繋がれてきたのであり、その意味で、田螺がその小さな体で旅している旅とは、大いなる生命の循環を繋いでいくためのものでもあったと言えます。
作者はそんな田螺に懐古の念と同じだけの敬意を抱きつつも、その小さな友人を次なる旅先へと送り出したのでしょう。同様に、5月5日にかに座から数えて「未来に向けた活動」を意味する11番目のおうし座で「覚醒」の天王星と「主体性」の太陽が重なっていく今週のあなたもまた、できるだけ大きな活動をする仲間との小さなつながりを大切にしていきたいところです。
縦軸と横軸の交わり
例えば、鶴崎燃の『海を渡って』という写真集のテーマはずばり「移民に世界はどう見えているのか」というものでした。日本と満州、ミャンマーと日本など、故郷から異郷へと渡ってきた人々の「かつていた場所」と「今いる場所」を対置させていくことで、隔てられた2つの場所、2つの時間を結びつける目に見えない‟糸”の存在を読者にまざまざと感じさせていくのです。
人は皆、縦軸=歴史と未来をつないでいく時間の流れと、横軸=同じ時代を生きる人々によって共有されている空間の広がりが交差する地点に生きていますが、こうした作品を見ていると、地球上でほんの少し座標のずれた地点に生を受けただけで、「これは自分の人生だったかも知れない」という不思議な感慨を少なからず覚えていくはずです。
中国からの引き揚げ者やミャンマー移民の背後には、大きな時代のうねりが働いていましたが、それは現代日本を生きるあなたにおいてもまったく同じであり、生ある限り彼らと同じように同じ時間の流れの中で自分固有の物語を紡ぎ続けていくのです。
その意味で、今週のかに座もまた、まだ自分が知らない未知の地点へと‟糸=意図”を通し、結び付けることで、新たな人生物語の展開をもたらしていくことが大きなテーマとなっていくでしょう。
今週のキーワード
これは自分の人生だったかも知れない