かに座
のたうちまわって生きて行く
「老成の美」をめざして
今週のかに座は、「曖昧に踊り始める梅見かな」(野口る理)という句のごとし。あるいは、無意識のうちに自分が真似ていたモデルを再発見していくような星回り。
頭上高くに成長していく桜と違い、梅はどちらかと言うと枝が横に張り出し、広がりのある枝ぶりが特徴となりますが、例えば室町時代の絵師・狩野永徳の「四季花鳥図襖」の春の場面に描かれた梅の老木のように、太い幹がのたうつようにくねり、枝が何度もくの字に折れ曲がって複雑なシルエットを生みだしている威厳のある梅の姿は、古来より「疎痩横斜(そそうおうしゃ)」と呼ばれ、長寿の相に重ねられて尊ばれてきました。
作者がどれほど立派な梅の木を見たのか、それとも単に花見の席で酔っぱらっていたのかは分かりませんが、永い歳月の間に風雪にさらされるうち、斜めに傾き、横に広がっていった梅の枝ぶりに、思わず身体が反応したのでしょう。
いつしか視界も斜めに傾き、手や足は何かを求めて空中をさまようように、伸び広がっていることに気が付く。こうして右も左もわからないまま「曖昧に踊り始める」身体とともに、春は作者のもとにようやく訪れてきた。
まっすぐに、最短距離を、何事もなく、コスパよく進んでいくだけが人生じゃないさ。むしろ、「疎痩横斜」な梅の老木は人間にそれとは対極にある“老成の美”というものを教えてくれているようでもあります。
同様に、24日にかに座から数えて「自己調整」を意味する6番目のいて座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、自分の生き方や姿勢がいい塩梅の曲がり具合になっているか、なりそうか、改めて確認してみるといいでしょう。
作務するように生きてみる
禅の「作務」とは掃除や草引きなどの労務のことで、境内や道場などの修行の場を整えるための毎日の環境整備であり美化活動全般を指します。当然、多くの人に注目されるような仕事でもなければ、やってお金になる訳でもなし。およそキャリアアップやワクワク感などとも縁の遠い肉体労働です。
自分はそんなブルーワーカーみたいなことはしたくないと思う人がいるかもしれませんが、禅の修行ではこうした作務を非常に重視し、高齢になった老師が決して作務を辞めようせず、「一日不作一日不食(一日なさざれば一日くらわず)」といった言葉を残した例も事欠きません。
これは古い時代の精神主義というより、自分自身をどういう存在として捉えているかの表れでしょう。つまり、煩悩や過剰さに囚われやすい自分であると実感していればこそ、作務のような自分を空っぽにする作業の大切さが身に沁みてくるのです。
逆に、何かを獲得しなければ、あるいは人から承認されなければ自分には何もないと考えている人ほど、こうした作務を嫌がる傾向にあるように思います。いまのあなたはそのどちらに偏っているか、まずは一度心に問いかけてみるべし。
かに座の今週のキーワード
疎痩横斜