かに座
何もしないでいい
背景の“感じ”
今週のかに座は、「流れ行く大根の葉の早さかな」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、背中を押されて躍り出ていくような星回り。
川の岸辺に寄ってみると、大根の葉が思わぬ早さで流れて行った。昭和3年の作ですから、作者の見た川の上流では、大根をにぎやかに川で洗う情景があったのかも知れません。
冬の野菜である大根の葉のあざやかな緑が、冬枯れして色を失ったあたり一帯の景色のなかでハッと目を引かせる驚きを作者にもたらしたのだということがよく分かる一句ですが、なにより句の背景に空間が果てしなく広がっているという“感じ”がまざまざと伝わってくるところが、掲句を本当によい俳句にしているのでしょう。
これは人間に置き換えても同じことが言えるようで、ある先生いわく人相術でもパッとその人を見た時に、うしろに明るい気がほわーっと広がっているように感じられる人は、先祖や周囲から助けられるから当座に何か問題を抱えていても大丈夫なのだそうです。
翻って、今のあなたの背後にはどれだけの気が広がっているでしょうか。2月8日にかに座から数えて「集合的援助」を意味する11番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、文字通りあなたを支えてくれている人たちから背中を押されるような形で、社会に向かって勢いづいていくでしょう。
「うつろい」の感覚
今週のかに座の人たちのテーマは、いわば「うつろい」の感覚を研ぎ澄ますことだと言ってしまっていいでしょう。これは「ウツ(空)」という言葉を語幹として生まれた言葉で、空疎な状態になにかがやってきて移ろっていくことを表します。ついでに言えば、そこでは「移る」だけでなく「写り」や「映り」も起こっており、それら複数のイメージの重層的な相入相関のなかで、「うつつ(現)」が微妙に移り変わっていくのです。
それは、生命というものの完璧なオリジナルがどこかにあって、定期的に元通りに復元していこうとするのでは決してなく(それは厳しい自然のもとではどうしても無理が生じ失敗に終わる)、むしろ時のうつろいとともに自分もうつろい、そこで必然的に生じるゆがみやほころびも遮断しないでいるということを、感覚的によく表しているし、そこでは生きることは絶えず生まれ変わっていくことに他なりません。
そうした生まれ変わりのコツやきっかけを、今週改めて思い出していけるといいのですが。
かに座の今週のキーワード
写りやゆがみ、ほころびを遮断しないでいること