かに座
川の流れのように
冷蔵庫にも扉あり
今週のかに座は、「生も死も冷蔵庫にも扉あり」(今瀬剛一)という句のごとし。あるいは、必要なものを必要な分だけ手元に残していこうと改めて意図していくような星回り。
冷蔵庫の扉ほど、私たちが日々、何の気負いもなく無意識に開けているものはないが、作者はここで死というものもまた、それと変わらないほど不意に迎えるものなのだという。
作者の自解によれば、自身の主治医であり、俳句の門下生であった人物を見舞って、愉しく歓談してきたその夜のうちに訃報が飛び込んできて、取るものも取りあえず駆けつけるとあれだけ元気だった人物画すでに冷たくなっていたのに接し、思わず「冷蔵庫にも扉あり」と叫んでいたのだそうだ。
つめたい死への扉を開けたとき、あんまりガランとしているのはさみしいが、かといって溢れだすほど物がパンパンにつまっているのも節操がない。どうしたって私たちは日々の生活のなかで不安に駆られて物を買い込みすぎたり、ついつい前のめりになって自分のことをおろそかにしてしまったりするけれど、こういう句に接すると、それもいよいよとなってからではなく、やはり日頃から整えていくしかないのだろうと改めて痛感せざるを得ない。
29日にかに座から数えて「必要な豊かさ」を意味する2番目のしし座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、つねに自身のかたわらにある「冷蔵庫」を眺めつつ、返すまなざしで自身のいのちの在り様を見つめていくべし。
ムーンリバー
ときどき、この世界で起きた何もかもが夢なんじゃないか、そんなふうに思えてくることはないでしょうか。けれど、そんな時に見上げた夜空に浮かぶ月を見ていると、そのあまりの生々しさに心打たれて、これだけは間違いなくリアルなんじゃないかと思えてくる。他の何もかもが信じられなくても、これだけは信じてもいいのかも知れないと。
「ムーンリバー」を作詞したジョニー・マーサーも、おそらくそんな感覚を思い浮かべながら歌詞を書いたのではないかと思います。以下は曲の出だし部分の抜粋です。
Moon river,wider than a mile(ムーン・リバー、この広く果てしない川よ)
I’m crossing you in style some day(いつの日か、あなたを颯爽と渡ってみせる)
Oh,dream maker ,you heart breaker(ああ夢を見させもすれば、心を砕きもする)
Whereever you’re going I’m going your way(あなたが行くところならどこへでも、私はついて行く)
ここでは世の中の基準や、よいとか悪いとか決めつけられ、頭で意味づけられる以前のナマの世界に生きているもう一人の<私>として「ムーン・リバー」が登場していますが、今週のかに座もまたそんな川の流れの一部となったつもりで過ごしてみるといいでしょう。
かに座の今週のキーワード
無常感