かに座
部屋とティッシュと私
イコールパートナーシップ
今週のかに座は、「冷やかにティッシュ箱より直立す」(小豆澤裕子)という句のごとし。あるいは、まなざしの冴えを磨いていこうとするような星回り。
晩秋になると、すべてのものが冷え冷えとして、自身の輪郭をあらわにしてくるように感じられますが、掲句は何の変哲もない室内の光景にも新鮮なまなざしを向けた一句。すなわち、一枚の「ティッシュペーパー」がティッシュ箱より今まさに直立しているではないか、と。
実際、ティッシュというのは最後の一枚になるまで、箱から出てきては私たちの前に立派に立ってその存在を見せてくれる。ティッシュであれ石であれ猫であれ、この世で何かが垂直に屹立している姿は、私たち人間にとってある種の精神性の痕跡を感じさせますが、それをティッシュ箱にまで見出し、当たり前と考えてしまわない作者の眼は、まったく驚嘆に値します。
また、ティッシュのふわりとした形状は、それを包んでいる周囲の空気の形であり、それを新鮮な景として捉える眼は、社会が混迷期にある言論人には特に不可欠な資質でしょう。
13日にかに座から数えて「見るべきもの」を意味する7番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自身のまなざしをより鋭く、より深く向けていくべき対象を改めて見定めていきたいところです。
曹植の「野田黄雀行(やでんこうじゃくこう)」
曹植(そうしょく)は、三国志の英雄である魏の曹操(武帝)の息子のうちでもっとも詩人としての才に優れていたとされる人。ただし曹操の帝位を継いだ兄の曹丕(文帝)と仲が悪かったことでも有名で、この楽府(民間歌謡ふうの歌)は身の危険を感じている自分を「野田黄雀」すなわち野のスズメに託して歌ったものです(「行」は歌のこと)。
その冒頭は「高樹 悲風多く 海水 その波をあぐ」から始まるのですが、これは裏返せば低い樹には激しい風は吹かず小さな池には波風立たぬ、ということで、作者の今いる状況の危うさ、厳しさを象徴しており、そこに一羽のスズメが出てきます。
見ずや籬(まがき)のあいだのスズメの、タカを見てみずから羅(あみ)に投ぜしを
羅せる家(ひと)はスズメを得て喜び、少年はスズメを見て悲しむ
剣を抜きて羅綱(あみ)をはらえば、黄雀(スズメ)飛び飛ぶを得たり
飛び飛びて蒼天を摩(ま)し、来たり下りて少年に謝す
剣を抜いてアミを斬り払ったのはむろん「少年」であり、「黄雀」=作者はそうして自分の置かれた厳しい状況を打開してくれる存在の出現を待ち望んでいたのでしょう。
同様に、今週のかに座もまた、自分を助けてくれる存在を、対等な立場の相手と見なす考え方というものもあるのだと気付いていくことがテーマとなっていくのだとも言えるかもしれません。
かに座の今週のキーワード
助けたり助けられたり