かに座
小さくまとまるなってスピノザさんが言ってた
「自己保存のコナトゥス(努力)」
今週のかに座は、スピノザの「自己保存」という言葉のごとし。あるいは、とことん自分の行けるところまでいってみようとするような星回り。
ベートーヴェンの『歓喜の歌』において見出されるような、死への衝動をも包み込んだ生きる意志、それをニーチェは「力への意志」と呼びましたが、その先駆と考えられるのがスピノザの「自己保存のコナトゥス(努力)」でした。
訳語が災いしてか、「力への意志」と同様、利己主義的で保守主義的な悪い原理かのように思われがちですが、スピノザはこれこそが徳の唯一の基礎と見なしていました。なぜか。
スピノザは個体を無限なる実体の「ある一定の」表出と考えていた一方で、個体は有限であるとも明記していました。とすると、個体とは無限を含んだ有限ということになりますが、これは言い換えれば、どこまでが「自己」で、どこからが「非自己」なのか、ということは先天的に、そして一つに限定されるような形では決定できないということ。
だから、自己と非自己とのあいだの境界線を引かずに、不断に考え続けること、安易な結論を出さずに、沈黙を深めていくこと。そういうことを、スピノザは大切にしようとしていたのではないでしょうか。
6月2日にふたご座から数えて「隠者」を意味する9番目のうお座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、小さくまとまることを諦めるべし。
二つのレベルの間を流れゆく
人生とはつねにうつろいゆく風景のようなものと言えます。そしてたとえ猛烈な風が吹いていたとしても、ざわめき騒ぎ立つのはあくまで海の表面のみ。その下には深海が静かに広がっており、その逆も然り。どんなに激しい潮流の海であったとしても、海面を眺めていれば日の光を浴びてきらきらと輝く穏やかな瞬間も垣間見えるものです。
表層と深層、人生にはつねに二つの異なる顔がその時々の表情を浮かべており、先の「自己と非自己とのあいだの境界線を引かずに、不断に考え続ける」とは、たとえばそうした二つの風景を行き来することができるような自分であり続けるということでもあるのではないでしょうか。
もし今あなたが表層の現実だけにはまり込んでいるのなら、すぐにでも探索に出かけましょう。あるいは、きらきらとした波間や、海中の神秘を思わせる相手がいるなら、彼らの懐に飛び込んでいきましょう。
今週のキーワード
ケイローン