かに座
アリのうた
虐げられた者へのまなざし
今週のかに座は、「秋風や酒肆に詩うたう漁者樵者」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、なんでもないような言葉がそのまま詩になっていくような星回り。
漢文調にしてわざと全体を「絵」のように引き立てている一句です。漢文なので、音読みで「秋風(しゅうふう)」に「酒肆(しゅし)」。酒肆というのは、いわゆる居酒屋のようなお店で、「漁者(ぎょしゃ)樵者(そうしゃ)」は漁師と木こり、つまり社会の底流の労働者たちのこと。
ただ、掲句に詠われた「漁者樵者」は、いずれも単なる漁師や木こりではなく、それぞれ隠者の風貌をもち、また詩人の相をそなえているように見えます。
作者の生きた江戸時代当時は、漢文調が格調高いものとされていましたが、作者はそれを逆手にとって、社会のなかで一番虐げられているはずの人たちをこそ格調高いものとして表現してみせたのです。
ここでいう「詩」とは、おそらく海から山から酒場に集まってきた労働者たちが、地酒を酌み交わしながら一日の疲れを吹き飛ばすため秋風のなかで歌っていた民謡や即興歌のことでしょう。
17日にかに座から数えて「原風景」を意味する4番目のてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分が大切にしていきたい日常風景や記憶の光景を自身のバックグラウンドとして改めて脳裏に刻んでいくといいでしょう。
一周まわってアリに戻る
瞬間なんか生きないようにしようね。瞬間の凄さとか輝きなど、無益でかりそめの夢のようなものだから。そんなことより、将来のためにいま克己努力し、学業や仕事にはげもう、未来時を大切にしよう。そうすれば、幸福な生活を約束します。(古東哲明『瞬間を生きる哲学』)
いわゆるイソップ童話の「アリとキリギリス」のお話は、こうした現実観(リアリティ像や幸福論)を植え付けることに一役買っていますが、かに座の人というのは本能的にそうした現実観に反発を抱きやすいところがあるように思います(12星座のうち、もっとも原始的な性質の持ち主)。
ただ、そうして押しつけられる義務や常識をひっくり返すだけの馬力を秘めているだけに、一周まわってアリになりきれば、アリもキリギリスもどんどん懐に入れて、平等に養っていこうとするような器の大きさや“歌心(うたごころ)”があるのです。
そうした性質を発揮していけるよう、今週のかに座はキリギリスのような一次的な快楽を追うのでも、パワフルな行動力で本能的に周囲をアッと言わせるのでもなく、もっと身近なところにあるシンプルで素朴な喜びに立ち返っていきたいところです。
今週のキーワード
素朴に、ささやかに