かに座
意味が無意味に浸食される
心との弱い関わり方
今週のかに座は、笑う「チェシャ猫」のごとし。すなわち、現実をその本来のやわらかさそのままに受け止めていくことに精を出していくような星回り。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に、アリスが木の上のチェシャ猫に道をたずねる有名な場面があります。
アリス:すみませんが、私はどちらに行ったらよいか教えていただけませんか。
チェシャ猫:そりゃ、おまえがどこへ行きたいと思っているかによるね。
アリス:どこだってかまわないんですけど
チェシャ猫:それなら、どっちに行ってもいいさ。
アリス;どこかに着きさえすれば…
チェシャ猫:そりゃ、きっと着くさ。着くまで歩けばの話だけど。
(河合祥一郎訳)
7歳の迷子の少女に対するものとしては、一見まったく取り付く島のない冷たい返答のように思いますが、あまりに真っ当に答えようとすると逆にナンセンスに変貌して笑いを誘うといういい例でしょう。
あるいは、もしかしたらチェシャ猫はアリスが本当は自分のしたいことがはっきりしていないのを見抜いていたのかも知れません。その状態で親切に道案内をしたり、お節介を焼いてしまえば、アリスの内発的な“したいこと”の現われをかえって妨げていたでしょう。
説明もせず、言い訳もせず、笑いだけを残して消えるくらいの、弱い関わり方くらいが、アリスというまだ物事のかすかな萌しのような存在にとっては、ちょうど良いのかも知れません。
26日未明にかに座から数えて「奉仕行」を意味する6番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分なりの自然な仕方で人や社会に貢献していく上での美学を改めて追求していきたいところです。
過剰な意味の中和期間
言語というものには必ず論理の力が宿っていて、人間はその力を借りて世界を認識し、あれとこれとを区別し、分離させ、さらに文法にしたがって秩序正しく並べていきます。従って、言葉やそれが持つ意味や統制は絶大なパワーを持ち、しばしばそれはあるがままの心までもがんじがらめにして、その支配下に置こうとするのです。
したがって、言語のこうした矛盾を取り除こうとする強烈な作用は、ときどきその運転をストップさせてあげないと、ある種の神経症や神経衰弱を引き起こすことになる訳ですが、先の「チェシャ猫」というのは、その意味で意味と論理の強力なはたらきを無化させ一時的にでも停止させる別の位相であり、ある種のカウンセラー的役割を担っているのだとも言えるかも知れません。
とはいえ、そうした理屈はさておいて、たまには気の置けない仲の相手と特に意味のない会話に花を咲かせてみてはいかがでしょうか。
今週のキーワード
チェシャ猫のように笑う