かに座
気持ちのよい別れのために
終わりの潔さ
今週のかに座は、「火の山の裾に夏帽振る別れ」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、歯切れよく区切り目をつけていくような星回り。
句の前書きには「とう等焼岳まで送り来る」とあります。焼岳(やけだけ)は飛騨山脈の長野県と岐阜県にまたがる活火山であり、作者はそこで句会ないし吟行を催していたのでしょう。
「別れ」といっても、この場合はどこか楽しげなものであり、広々とした山すそで、手を振って別れを惜しんでくれる仲間の姿を脳裏に焼き付けているのかも知れません。
戦争であれ事業であれ婚姻関係であれ、始めるのは簡単でもきちんと終わらせるのは難しいものですが、十七音というきわめて厳しい制限のうちで天・地・人のドラマを切り取っていかなければならない俳句という芸術は、考えてみれば「潔い終わり方」をめぐる終わりなき修練の道とも言えるのではないでしょうか。
6月28日に「決断する力」を司る火星がかに座から数えて「これまでの集大成」を意味する10番目のおひつじ座へと移っていく今週のあなたもまた、何をもって「やるべきことはやった」と言えるのか、改めて問われていくことになりそうです。
よく生きるために
「生きること――それは、死に絶えようとする何ものかを、わが身から絶えず追放することを意味する。生きること――それは、わが身の中の、またわが身に限らず、脆弱で古くなった一切に対して、容赦なく苛酷であることである。
生きるとはしたがって――死に逝く者、衰弱した者、歳を重ねた者への畏敬の念をもたないことではないだろうか?常に殺害者であるということではないか。――しかしながら、老いたるモーゼは言ったものだ。「汝殺すなかれ!」と。」(『喜ばしき知恵』、村井則夫訳)
「生きる」をめぐるニーチェの考察を掲句にも援用するなら、別れの儀式とはこころの中の「死に逝く者」や「衰弱した者」、そして「歳を重ねた者」を殺すことなく天上へ、あるいは草葉の陰へと押しやって、それをしかと目を開いて見送っていくことに他ならないのではないでしょうか。
その意味で今週は、自分の中でいま死につつあるものと、それを超えて生きようとするものとの葛藤を通して、腑分けと昇華のプロセスを進めていくことがテーマとなっているのだとも言えるのかも知れません。
今週のキーワード
「汝殺すなかれ!」