かに座
のけものは空を飛ぶ
蛇穴から出づ
今週のかに座は、工藤直子の「ちびへび」という詩のごとし。あるいは、うるさい心理の屈託がなく、淡々として清らかに在ろうとしていくような星回り。
「暖かいのだもの/散歩は したいよ/ちびへびは/おうちに鍵をかけて/ぶらぶらでかけた こんちわというと/小鳥は ピャッと飛びあがり/いたちはナンデェとすごんだ/あら おびに短したすきに長しねと/仲間は忍び笑いをした
ちびへびは急いで家にもどり/おうちの中から鍵をかけ/燃え残りの蚊取り線香のように/まるくなって ねむった/でも……/暖かいのだもの/散歩は したいよ」
人に煙たがられたり、うまく馴染めなかったり、身を隠したがったり。そんな「ちびへび」を、工藤さんはらくらくと、くつろいで書いている。だからか、読んでいるうちになんとなく楽しくなって、自分でも書けるんじゃないかという気分になって、ノートをつかみ喫茶店へ駆け込んだ人も少なくないはず。
ただ、こういう洗練された文章というのは、真似しようとするほどに書けなくなるもの。「文は人なり」という言葉の通り、平明な文章ほど書き手の魂の奥行きからしか生まれてこないのだ。
10日にかに座から数えて「身振りと手振り」を意味する3番目のサインであるおとめ座で満月を迎え、同じタイミングで水星が順行に戻っていく今週のあなたもまた、どこか穴から出てきた「ちびへび」のように、やらずにはいられない、表さずにはいられない何かを、自意識に囲われることなく率直に自身に与えていこうとするだろう。
「カモメのジョナサン」
カモメたちは「伝書鳩は飛ぶべき場所を飼い主に仕込まれている」と馬鹿にしつつも、自分たちが餌をとるためにしか飛ばないことに無自覚だったのに対し、ただひとりジョナサンだけは、「飛ぶ」という行為そのものに価値を見出していこうとした。
じつに奇妙なことに、ジョナサンは「ただ無意味に」飛ぶことを楽しみ、その異端さゆえに群れから追放されてしまう。しかしそれでも飛行術を追求し続けたジョナサンは、やがて誰よりも早く高く飛ぶことができるようになる。
それは生活の重みから可能な限り遠く離れた、世界のエッジにたどり着かんとする試みであり、ひとりぼっちの孤立でもあると同時に、制約からの解放でもある。
今週のかに座は、そうして透明になっていくことの寂しさとも闘っていくつもりでいたい。
今週のキーワード
文は人なり