かに座
目となり器となる
引き継ぐべきもの
今週のかに座は、「新月や狂死の猫と餓死の牛」(高野ムツオ)という句のごとし。あるいは、自分が応えるべき声なき声に耳を傾け身を浸していくような星回り。
作者は宮城県出身の俳人であり、<3・11>時に現地で被災して以後、今もまだ多賀城市に住みながら創作を続けています。
震災後しばらくの間、新聞の俳句欄は一部の熱心な人たちの投稿による震災詠であふれたものでしたが、9年の月日が経過した今、いまだ被災地の風景を読み続けている人は数少ない存在になってしまったのではないでしょうか。
掲句もまた、もはや関心の目さえ向けられなくなった被災地の“その後の風景”を率直に、生々しく歌い上げており、そこに描かれた光景はそうある以外には在り得ないものとして、静かながら確かな強度を伴なって伝わってきます。
新月は古来より、これまでの体験が結晶化され、ひとつの可能性の種子となって次の新しい時間サイクルに撒かれていく非常に重要な節目とされてきましたが、作者は被災地の歴史から何を引き継ぎ、どんな種子を撒こうとしているのでしょうか。
そして、25日(土)にかに座から数えて「受け継ぐべきもの」を意味する8番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分だからこそ目を向けられる風景や、聞き取ることのできる声なき声をしかと受け止めていくことが大きなテーマとなっていくはずです。
万有引力の感知
「万有引力とはひき合う孤独の力である」と谷川俊太郎さんは書いていました。でも、互いに自然とひき合っていることを認めるのは実際にはとても難しいことです。
というのも、電車に乗れば「脱毛」「エステ」「整形」「英会話」など、さまざまな車内広告を通じて欲望を煽られ、日々さまざまなメディアであれをしろここに行かねばと、大量の電気信号を受信しながら生きていると、いつの間にか足元がお留守になって、どこに立っているのか忘れてしまうから。
あなたはどこに立っているんでしょう? そしてその足元はどこに引っ張られているのか。それは自分という存在が徹頭徹尾“孤独である”という感覚の上で、初めて感知されてくるものであるはずです。
自然と引力を感じる方向がどこなのか、今週は自分の手や足を通してしっかりと感じていきましょう。
今週のキーワード
レクイエム