かに座
離せば手に満てり
ひとつの転換
今週のかに座は、「戦終る児等よ机下より這い出でよ」(渡辺桐花)という句のごとし。あるいは、自分が何を捨てられるのかを知り、飛びつくことのできるものの元へと、飛び込んでいくような星回り。
これは敗戦に際しての多く詠まれた感慨句の一つですが、とはいえ、現実の場面を描写したものではありません。
8月15日は夏休みの最中であり、授業はなかった。注釈によれば、作者の教え子のうち成人した者の多くは戦地へと赴いており、つまり、この句の声は彼らに向けられたものだったのでしょう。
そんな「児等」と同様に、今のあなたもまたこれまでの戦ってきた「戦(いくさ)」が終わり、ひとつの転換を迫られているのだと言えます。
戦がいくつ終わろうと、嫌でも人生は続いていく。そんな人生を生き抜いていくには、バスや電車を乗り継ぐように、いくらでも生きる手段を乗り換えていかねばなりません。
少なくとも、冒頭の句の作者は、自分の教え子たちにそうあって欲しいと願ったはずです。
サーカスの物理学
空中ブランコは「手をはなす」という行為を見世物として成り立たせていますよね。
それは寺山修司が指摘していたように、「信頼の見世物化」であるという点で、空中ブランコというのはサーカスの中でも特に興味深い芸です。
両手をパッとはなして宙を飛ぶのは、体重の軽い女性と決まっていたり、それをがっしり腕で受け止めるのは男性であるという意味では、空中ブランコはメロドラマの比喩表現とも解釈できます。
ただ、そうだとしても、一切を捨てて飛び込んでいく人間と、それを手で受け止めてやる人間のあいだに浮かび上がってくる宙は、どこかゾッとするような引力を感じさせます。
おそらく私たちも人生の中で転換を迫られたときには、そうした引力のようなものに引っ張られるようにして、命をつないでいくのではないでしょうか。
今週は、そうして何かからパッと手を離していくことで、引力の力強さに改めて気が付き、それに導かれていくことになるでしょう。
今週のキーワード
宙を飛ぶ