かに座
天地のあいだに生きる“こつ”
二重の意味での「あらためて」
今週のかに座は、「鰯雲ここに生きしと土台あり」(高野ムツオ)という句のごとし。あるいは、自分の力ではどうにもならないような危機を経て、ある種のメタモルフォーゼを遂げていくような星回り。
作者は現代の人で、掲句は震災後の景色を詠んだものだろう。人々が共同生活を営んでいた大地を津波が襲い、すべてを流し去ってしまった。残された「土台」は、「ここに生きし」という標識のようでもあるし、また一から生活を作りあげていくしかないという決意の狼煙の元のようにも思える。
台風や移動性低気圧が近づく秋によく見られる「鰯雲(いわしぐも)」は、秋の象徴的な雲模様であり、人間らの悲嘆に関わりない高さで空に広がっている。
古来より天地の営みの実相とはこうしたものだったし、その間にはさまれて生きる他ない人間は、災害のたびに生まれ変わるこの世界を生き続けてきた。
「あらためて」という言葉は、「こと新しく、あらたに」という意味と、「これまでのことを吟味して改めて」という二重の意味が含まれているが、14日(月)のおひつじ座満月を経て始まる今週のかに座は、まさにその2つの意味で今後自分がこの世界でできることとは何なのかということを、‟あらためて”問うていくことになっていきそうだ。
無常もまたリズムであるということ
哲学者の磯部忠正(いそべただまさ)は、そうした「あらためて」という在り方について、無常観を軸に次のように説明している。
「いつのまにか日本人は、人間をも含めて動いている自然のいのちのリズムとでもいうべき流れに身を任せる、一種の「こつ」を心得るようになった。おのれの力や意志をも包みこんで、すべて興るのも滅びるのも、生きるのも死ぬのも、この大きなリズムの一節であるという、無常観を基礎とした諦念である」(『「無常」の構造』)
われわれの生き死にには、大きな四季の移り変わりや月の満ち欠けのような移りゆきと同じようなリズムが働いており、「あらためて」ということも、ついついそのリズムから逸脱してしまった人間が、再びそこに軌を一にしていくことを言うのかもしれない。
とはいえ日本人のDNAに刻み込まれた遺伝的記憶としての無常観を、現代人は忘れつつあるが、今週のあなたはそんな記憶を再びよみがえらせていくことになるだろう。
今週のキーワード
自然のいのちのリズムに任せる