かに座
身にしむ言葉を味わうこと
風は隙間に吹いていく
今週のかに座は、「さり気なく聞いて身にしむ話かな」(富安風生)という句のごとし。あるいは、誰かの発した何気ない一言に、じわじわと侵食されていくような星回り。
「身に入(し)む」という言葉は、もともとは身にしみいるように深く感じることを表すための語で、特に秋と結びついたものではなかったようですが、それが次第に秋風と結びついて、特にその寂寥感を言い表わすために使われるようになっていったのだそうです。
掲句の場合、「さり気なく聞いて」と感情を表に表すことなくあっさりと受けて聞いた話が、胸中にもののあはれをもたらすものだったのでしょう。言葉としては書かれていなくても、確かにそこに秋風は吹いたのです。
14日(土)にかに座から数えて「啓蒙」や「ご神託」を意味する9番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたは、秋の冷気が身にしみとおった時のような、思わずハッとさせられるような体験をしていきやすいでしょう。
蒸し暑く雑然としていた夏とは異なり、さらりとしていながらも静かに余韻の残っていく。そんな時間を、舌で転がすように味わっていきたいところです。
前世の自分からの手紙
ダライ・ラマ14世の自伝には、まだ少年面影の残るダライ・ラマが「私はどうしたらいいのか?」と側近に聞いた際、次のような手紙を渡されるというシーンが出てきます。
「チベットは、宗教、政府の両方が内外から攻撃を受けるであろう。もしわれわれみずから自国を守らないなら、ダライとパンチェン・ラマ、父と子、すべての尊敬すべき宗教指導者達はこの国から姿を消し、無名のものとなってしまうであろう。僧も僧院も絶滅されるだろう。法の支配は弱まり、政府官僚の土地、財産は没収されるだろう。彼らは己の敵に奉仕させられ、物ごいのように国を彷徨うことになろう。すべてのものが塗炭の苦しみに喘ぎ、恐怖にさらされ、昼も夜も苦悩に重い足を曳きずってゆくだろう。」(『ダライ・ラマ自伝』)
そして、「この手紙を書いたのはあなたですよ。あなたが私達を導くのです」と言われ、呆然としてしまうのです。しかし結果的に、少年は前世の自分の言葉を受け入れ、救国の英雄となっていきました。
個人というものを支える本人の才能や努力以外の訳の分からない力のようなものがあるとすれば、それは普段気付きえない自身の背景との結びつきでや、連綿と続いてきた系譜を背負うという機会をどれだけ経てきたかにあるのではないでしょうか。
今週はそんな自身の背景だったり、‟図”に対する‟地”の部分に焦点が当たっていきそうです。
今週のキーワード
必要な言葉は何度でも自分に与えられる