かに座
風呂上がりに死を想う
すべては生きているうちに
今週のかに座は、「死後の景扇風機に顔近づけて」(髙勢祥子)という句という句のごとし。すなわち、あちら側へと抜けていくものとこちら側へ返ってくるものとを改めて区分けしていくような星回り。
扇風機に向かって「あ~~~」と声を出すと、声が震えて「あ”~~~」と聞こえてくるのはなぜだろう、と疑問に思ったことはないだろうか。
正解は声もまた波であり、扇風機の羽根に当たって返ってきた波と干渉しあうから。そんなイメージをなんとなく頭に浮かべた上で、改めて掲句を何度か読んでいると、逆説的にこの世というのがどんなところか感覚的に分かったような気がしてくる。
つまり、自分の身から発したことがきちんと返ってきては。それらと向き合わざるを得ないのがこの世であって、そうした因果応報の網目からするっと抜けた先に広がっているのが「死後の景」という訳だ。
17日にかに座から正反対の位置にあるやぎ座で満月が起きていく今週は、まさに自分がここしばらくのあいだに発してきた心の声が具体的な姿かたちを伴なってあなたの元へ立ち現れてきやすでしょう。ただ、それは同時に生を生たらしめている「死後の景」を垣間見るということでもはずです。
日常と演技と亀裂
日頃より懸命にこの世を生き、平凡なサラリーマン役であれ、家庭を支える大黒柱役であれ、自由だけれどさみしい独身中年役であれ、演じている役柄に熱心に打ち込めば打ち込むほどに、「本当の自分は何者なのか?」といった問いは、どんどん忘れ去られていきます。
というより、そうした忘却こそがこの世でうまく生きていく上での大前提なのです。
しかし時折、役柄上の自分は本当の自分自身ではないのだということを、ふと感じてしまうことがある。一度それが出てきてしまうと、目の前で展開されていく現実劇や演技においてNGを出したり、これまでスムーズに乗れていた脚本に乗れなくなったり、慣れ親しんだ日常舞台が、とたんに嘘っぽく、居心地の悪いものになっていく。
今週はふとしたきっかけから亀裂が入り、そこからニョッキリと顔を出してくる違和感や不安が無視できなくなった時、どうするべきかを問われていくようなタイミングとなっていくでしょう。
あるいはそんな時こそ、私たちは月を見上げるべきなのかも知れません。
今週のキーワード
アナザーワールドとしての月