かに座
背中を押してくれるもの
ダンテとウェルギリウス
今週のかに座は、そそり立つ地獄の断崖を登るダンテのごとし。あるいは、逆境や不利な条件を大いに利用して、魂に新たな力付けを得ていこうとするような星回り。
ダンテと言えば13、4世紀の大詩人であり、代表作である『神曲』で知られていますが、この作品は人生の半ばを迎えた自分自身が、ある日暗い森の中に迷い込み、そこで地獄に入ってから抜けていくまでの壮大な遍歴譚の体裁をとっています。
そして、ダンテが暗い森で絶望していた際に出会って以来、自身の導き手となってもらったのが古代ローマ最大の詩人ウェルギリウスの魂(影)。
この先輩詩人は、地獄や煉獄において、ダンテが怪物や亡霊や難所にぶつかって心が挫けそうになるたびに、彼を叱咤激励し背中を押してくれ、彼のおかげでダンテもなんとか困難を切り抜けることができたのです。
19日(金)に、かに座から数えて「心の奥底」を意味する4番目のてんびん座で満月の起きる今週は、かに座の人たちにとってある種の地獄めぐりの様相を呈してくるかもしれません。
ただそれは逆に言えば、ダンテにおいてもそうだったように、自分が背中をあずけられる存在と魂のレベルで深い交流をかわしていける時期でもあるということを、頭の隅に入れておくといいでしょう。
地獄下りと精神の力
宗教的現象の根源的意味について触れた、数多くの著作を残した宗教学者ミルチャ・エリアーデは、祖国ルーマニアに戻れず異国の地で厳しい日々を送っていたある日の日記の中で、次のように書いています。
「私は繰り返される失敗、苦難、憂鬱、絶望が、ことばの具体的で直接的な意味での<地獄下り>を表していることを明晰な意志の努力によって理解し、それらを乗り越えうる者でありたい、と念じている。人は自分が実際に地獄の迷宮中で迷っているのだと悟ればすぐ、ずっと以前に失ったと思い込んでいた精神の力が、新たに十倍になるのを感じるのだ。その瞬間にあらゆる苦しみはイニシエーション(新しい出発)の<試練>になる」(『エリアーデ日記 旅と思索と人』)
まさに彼の宗教理論がそのまま、彼の生に直結しているかのようです。
もちろん、出会いを求め続ければ、いずれそれは地獄下りとなっていくことは分かりきったことですが、それでもなおエリアーデのように、明晰な意志をもって、それらを乗り越え得る者であらんと念じて、精神の力を奮い起こしてみてください。
この人間界も地獄なのだと、はっきり意識することで。
今週のキーワード
苦しみとイニシエーション