かに座
どうせ生きるならわがままに
股間に吹きつける春風とともに
今週のかに座は、「花束を股に挟みて涅槃西風」(黒岩徳将)という句のごとし。あるいは、あー、もう死んでもいいかな、というところから生き返ってくるような星回り。
「涅槃西風(ねはんにし)」は仲春の季語で、お釈迦様の入滅の日(陰暦二月十五日、春のお彼岸前後)あたりに吹く風のことで、西方浄土からの迎え風とも言われている。
「花束を股に挟みて」というのは、一瞬ちょっとよく分からないかもしれませんが、花束を地面と水平に持っているスーツの男性を正面から見ると、確かにまるで花束を股に挟んでいるかのように見えるんです。
卒業式にしろ送別会にしろ、私たちは自分の人生の節目や変化をついつい大事として捉えてしまいがちですが、西方浄土でこちらを見守っている菩薩や仏の視点からすれば、なんだか滑稽で、バカバカしくて、だからこそたまらなく愛らしいのかもしれません。
13日(土)に、かに座で上弦の月を迎えると同時に、土星冥王星というこの世で生きていく上での枠組みに変容を迫っていく重い惑星の組み合わせとかに座の守護星である月が真っ向から結びついていく今週は、どこか自分の置かれた状況や直面している事態を面白がるような、宇宙的な大らかさが必要となってくるはず。
吹きつける春風とともに、どこまでも滑稽な自分を大いに笑い飛ばしていきましょう。
漱石からの助言
日本人の平均寿命も80年を超えた昨今では、限られた時間の中でどれくらい強く生を燃焼させるか? という問いの立て方はもはや時代遅れなのかもしれません。
とは言え、やはりそのような問いを地で生きていった者の言葉には、他の人が口にすればキザに聞こえる言葉にも独特の凄味が宿ります。
例えば、50年でその生涯を終えた日本を代表する文豪・夏目漱石。彼は若い弟子にあてて、自らの滑稽さをいかに扱うか、という問題について手紙にしたためていますが、そこには後の『こころ』にも通じる師弟関係を思わせる熱さがこもっています。
「他人を決しておのれ以上遥かに卓越したものではない。また決しておのれ以下に遥かに劣ったものではない。特別の理由がない人には僕はこの心で対している。」
「君、弱い事をいってはいけない。僕も弱い男だが弱いなりに死ぬまでやるのである。やりたくなったってやらなければならん。君もその通りである。」
「死ぬのもよい。しかし死ぬより美しい女の同情でも得て死ぬ気がなくなる方がよかろう」
これぞまさにおのれの弱さや滑稽さに悩みながらも、いい意味でわがままに人生を生き切った漱石ならではの、今のあなたへの助言といえましょう。
今週のキーワード
涅槃西風