かに座
ままならぬ浮世へ
闇路にやみぢを踏そへて
今週のかに座は、起きた現実を、心の眼で改変していく私小説作家のごとし。
日本の文学史を追っていると、作家が次第に師弟関係や労使関係から解放された“自由業”になっていくにつれ、政治・社会問題より自分や家族などの個人的な問題が扱われることが多くなっていった挙句、小説を書くために弟子や愛人とわざわざ実験的な恋愛関係に陥ってその波乱万丈を切り売りする徳田秋声や田山花袋のような人まで出てくることに、改めて人間の悲哀のようなものを感じてしまいます。
自由な身分になるにつれ、わざわざ不自由を求めてしまうのは、ある意味で人としてのサガなのかもしれません。そうして「自由と不自由のはざま」に立たされていく、というのが今週のあなたの星回りであり、もっと言えば、これまでの人生を振り返りつつそこにどんな「オチをつけていく」のかがかに座の2017年の大きなテーマとなってくるでしょう。
天の河はどこにあるか
日本における紀行作品の代表的存在である松尾芭蕉の『おくのほそ道』は、実際には芭蕉が旅をしてから5年ほどたった後に本にまとめられ、多くの創作的編集の手が入れられていたように、人生という長い旅路にオチをつけようとすると、どうしてもそこには「想像力による個人的体験の改変」が行われていかざるを得ません。
例えば、越後で佐渡島に向かって詠まれたとされる、下記の句。
「荒海や 佐渡に横たふ 天の河
Turbulent the sea― Across to Sado stretches The Milky Way.」
歴史的にも中央から疎外された政治犯などの流刑地であった佐渡島に臨んで、芭蕉はそこに「荒海」つまり人知を超えて運命を翻弄する力と浮かばれぬ思いを同時に見たのでしょう。
そして、そんなままならぬ人間の姿の傍らに、あるようでない、ないようであるという絶妙な仕方で寄り添ってくれている「天の河」の荘厳な気配を感じ取った。
しかしこれも、実際の当時の星空を再現してみると、どうも天の河は佐渡島に横たわるように見えていたというより、垂直に見えていたのではないかと言われています。
けれど、とにもかくにも芭蕉の心の眼にはそう見えていた。それが何より大切なことなのではないでしょうか。
今週のキーワード
自由と不自由のはざま、松尾芭蕉『おくのほそ道』(英文:ドナルド・キーン)、想像力による個人的体験の改変、「オチをつけていく」(2017年)