かに座
切なさのうごめき
蠢動
今週のかに座は、「春めくや人さまざまの伊勢まいり」(荷兮)という句のごとし。あるいは、自分の中の動物的側面をふと思い出しては、切なくなっていくような星回り。
作者の荷兮(かけい)は、江戸時代中期の名古屋の人。この時代、徳川幕府によって諸国をつなぐ街道が整えられ、人々は大いに旅を楽しんでいたようです。中でも特に人気があったのが、お伊勢参り。
一生に一度の旅の目的地に伊勢を選ぶ人も多く、そういえば同じ時代を生きた松尾芭蕉の「おくのほそ道」も、旅の最終的なゴールは伊勢神宮の式年遷宮への参拝でしたっけ。
掲句は伊勢へと向かう熱田の渡しのにぎわいを思い出しての一句ですが、やはり何か自分の中でうごめくものがあったのではないかと思います。
社会の中で間違いや失敗をしないよう、誰かに責められないよう、懸命に自分を守り静止しようとしている人間的側面とは別の、もっと蛇や狐や犬などが純粋に自分のしたいことを欲してそれを満たそうと動いていく時のような動物的な側面。
立春を迎えていく今のあなたには、自分の中のそうした一面がいつも以上に透けて見えてくるはず。
ここ掘れわんわん
では、いったい自分はどこへ旅をし、いかなる動物的側面を活性化し、あるいは誰と共に道中を歩んでいくべきかといった判断をどのようにくだしていけばいいのか。
こうした問いに対し、今週はあなたの理性も、これまでの経験値もあまり役には立たないでしょう。
「切なさ」つまり、心にかけて何かを深く思うということは、地下の隠れた水脈のような、自分の中のけものの声に耳を傾けることであり、自分や体の中の反乱分子が一気呵成にどこかへ向かっていくのに従うことであったりします。
花咲か爺さんは、犬のシロが鳴いた場所を汗水たらして掘ったりしていましたが、現代社会では普通そんなことしませんよね?
けれど、あなたはそれをやるのです。理由や動機付けを深めるというのは、結果的にもたらされた成り行きであって、大切なのは犬が鳴いたら穴を掘ってみようか、という気構えなのだと思います。
今週のキーワード
切なさを嗅ぎつける