かに座
時を超えて
胸中に灯り続けてきたもの
今週のかに座は、遠い日の父の書斎にたどり着いていくような星回り。あるいは、古くからあり続けてくれるものの中に、生身の自分の救いを見出していくこと。
誰の心の中にも、時間を忘れて没頭せずにはいられない‟秘密の花園”のプロトタイプのようなものはあると思いますが、それは不思議と死が身近に感じられる時や混乱と激動の最中にある時であるほど、妖しいリアリティーを持ってくる。
例えば、少年の頃に町でみた狂女や、逢魔が時に見た人さらいなどについて書かれ、さながら古い記憶の玩具箱のような『昭和幻燈館』という本を書いた久世光彦にとって、‟秘密の花園”と符合するであろう最たるものは「父の書斎で見つけた、見てはい けない秘密の本」でした。
内容について深くは判らないまま、ただ本棚の裏にそっと隠されていた1冊の本から漂う暗い情熱に心魅かれた体験こそは、その後作家としての彼の創作活動において間違いなく原点となっていたのでしょう。
もし今あなたが疲れ切っていたり、しんどさを抱えているならば、23日にふたご座で満月を迎える今週は、幼い頃にあなたの中で灯った小さな幻燈の先へと立ち返っていく絶好のチャンスとなっていくはずです。
未来への手紙
先日、2年半ぶりに日本を訪れて話題となったダライ・ラマ14世ですが、彼の自伝には、まだ少年面影の残るダライ・ラマが「私はどうしたらいいのか?」と側近に聞いた際、次 のような手紙を渡されるというシーンが出てきます。
「チベットは、宗教、政府の両方が内外から攻撃を受けるであろう。もしわれわれみずか ら自国を守らないなら、ダライとパンチェン・ラマ、父と子、すべての尊敬すべき宗教指 導者達はこの国から姿を消し、無名のものとなってしまうであろう。僧も僧院も絶滅され るだろう。法の支配は弱まり、政府官僚の土地、財産は没収されるだろう。彼らは己の敵 に奉仕させられ、物ごいのように国を彷徨うことになろう。すべてのものが塗炭の苦しみ に喘ぎ、恐怖にさらされ、昼も夜も苦悩に重い足を曳きずってゆくだろう。」(『ダライ・ ラマ自伝』)
そして、「この手紙を書いたのはあなたですよ。あなたが私達を導くのです」と言われ、 呆然としてしまうのです。
しかし結果的に少年は前世の自分の言葉を受け入れ、救国の英雄となっていきました。
おそらく、80代をゆうに超えたダライ・ラマ14世の「小さな幻燈」はこの手紙でしょう。
そして今週のあなたもまた、そんな風に「過去から渡された手紙を未来へと繋いでいく途上に生きているのだ」という実感が浮き彫りになっていくかもしれません。
今週のキーワード
秘密の花園に咲く花