かに座
旅立ちと変容
すべて出し切る禊ぎかな
今週のかに座は、「行春や鳥啼き魚の目に涙」(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、知的な理解のはかり知れないところで、汗をかき涙を流して禊ぎを果たしていくような星回り。
掲句は『おくのほそ道』の旅へと出発するにあたって芭蕉が詠んだ別れの句である。そしてここでは句を詠んでいる「私」は、同時に空をゆく「鳥」となり、水中を泳ぐ「魚」ともなって、それぞれの仕方で別れを惜しんでいる。
確かに、別れが決定的なものであればあるほど、それらしい言葉をすこし交わしたくらいでは、気持ちの整理などつくはずがないし、そもそもそれをどんな「気持ち」で表したらいいのかも見当がつかないだろう。
ここでは、そうした言葉選びや気持ちの検討以前の、もっと本能的なレベルでの別れの表現がなされているだけでなく、それらが共鳴しあって空間全体で激しく泣き叫んでいる。
今週はのあなたも、もう全身から出せるものはここですべて出し切ってしまおうと言わんばかりに、“ひとつの区切り”をつけていくことになりそうです。
境界人となる
芭蕉の「おくのほそ道」は、さながら異界へ旅立つ死出の旅路そのものでありましたが、庵のあった深川から最初の目的地である日光へ向う出発点までを、芭蕉はやはり船で移動しています。
そして、現在の千住大橋 橋詰テラスの記念プレートには、芭蕉が旅立っていく後ろ姿を描いたイラストの横に、「おくのほそ道 旅立ちの地」と題して芭蕉の言葉が引用されています。
「千じゅと云所にて
船をあがれば、前途三千里の
おもひ胸にふさがりて、
幻のちまたに離別の泪そゝぐ」
そして「おくのほそ道」では、この引用部分の後に、冒頭の句が詠まれているという訳。死出の旅路につくということは、もうこれまでの世界には戻れないということであり、自分が変容してしまうということです。
今週のあなたは、多かれ少なかれそうした変容のための儀を迎えていくのだと言えるでしょう。
今週のキーワード
泪をそそぐ