おひつじ座
破壊と創造
ハンマーを投げる未知の女性アスリート
今週のおひつじ座は、アップル社による初代マッキントッシュ発表時の伝説のテレビCMのごとし。あるいは、権力機構にとって恐ろしい潜在能力となる自動性を身の周りに見出していくような星回り。
『エイリアン』や『ブレードランナー』で知られたリドリー・スコット監督が手がけたこのCMは、ちょうど1984年に発表されたこともあって、ジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984』の世界観を下敷きにしています。
スキンヘッドで全身が灰色に染まっている囚人服姿の男たちが、巨大なスクリーンに投影された全体主義的な社会の実現を称賛するビックブラザーの演説をひたすら無表情で聞いている。そこにオレンジ色のショーツと真っ白なタンクトップを着た未知の女性アスリートが乱入してきて、かけつける看守たちに制圧される前にハンマーを投げつけるのだ。スクリーンは砕け散り、次のようなナレーションがかぶさる。
「1984年1月24日、アップル・コンピューターはマッキントッシュを発表します。そしてあなたは1984年が小説『1984年』のような年にはならないことを知るでしょう。」
ここでのビックブラザー=独裁者は、当時パーソナル・コンピューティングの先駆者であり市場を独占していたIBMを示唆していましたが、もし40年後の今日の文脈に置き換えるとするなら、果たしてビックブラザーとは誰になるのでしょうか。
そもそも、アップル社の齧られた林檎のロゴに象徴されるように、このCMもまた『1984』だけでなく、創世記のエデンの園の神話が重ねられ、女性―自然―自律的テクノロジーは白人男性の権威のヘゲモニーを脅かすものとしてイメージされていた訳ですが、現代においてそうした家父長制的権威を脅かす主体を担っているのは誰なのでしょうか。
7月21日におひつじ座から数えて「社会的自己」を意味する10番目のやぎ座で満月を形成していく今週のあなたもまた、ここではないどこか遠くではなく、日々の暮らしのうちに革命的な潜勢力となる源泉を感じとっていくことができるかも知れません。
ターヘル・アナトミアの衝撃
1774年に刊行された日本初の本格的な西洋科学書の翻訳であった『解体新書』の最も重要な底本「ターヘル・アナトミア」の翻訳作業は、それ自体が医学を超えて日本が西洋の文明との落差に気が付いてしまった大事件であり、ひとつの危機でもありました。
それ以降、日本及びその支配層は「テクノロジー」こそが自分たちを豊かにしてくれるものと信じて疑わず、そのまま「富国強兵」「殖産興業」の道を突き進み、結果的に戦争にまで到ってしまった訳ですが、それでも当時の人たちにとっては、ターヘル・アナトミアの翻訳および解体新書の刊行はこれまで自分たちがその上に安住してきたシステムや体制をみずから壊して再建していくきっかけともなったのです。その意味で、今のおひつじ座の人たちもまた、そうした当時の日本に近い状態にあるのだと言えるかもしれません。
これまでのなんとなく抱いていた違和感や、これではいけないというそこはかとない思いが、具体的な輪郭をもって浮き彫りになってくることもあるでしょう。くれぐれも、短期的に解決しようとしたり、ごまかして無視することのないよう意識して過ごしていくこと。
おひつじ座の今週のキーワード
転換点としての危機