おひつじ座
明るい水際
心音と夏景色
今週のおひつじ座は、『心音を聴きゐる部屋の夏景色』(布川武男)という句のごとし。あるいは、内(心身)と外(環境)とを気持ちよく響き合わせていこうとするような星回り。
作者は小児科の医師だが、そう言われなくてもなんとなくそうであることが分かるような一句となっている。
診療室の窓を覆う厚いカーテンは白のレースのそれにかわり、夏の強烈な日差しがカーテン越しにうっすらと診療室内にまで伝わってきている。室内は室内で、スリッパや白衣なども薄手の夏物にかわり、さっぱりとした涼感がさりげなく漂ってくる。
ただ、掲句はそれでいてどことなく静かな雰囲気を漂わせているから、時間帯は朝か午前中なのかも知れない。ただそうした、白よりもなお白い「夏景色」の中では、不穏な暗い影はより一層その影を濃いものにしていくもの。
だからこそ、聴診器を伝って聞こえてくる心臓の鼓動におのずと全神経が集中されていき、作者はその異常のないさざなみのような心音に聴き入っている。そうして心身が研ぎ澄まされていく感覚と、真っ白な光のしたにどこまでも広がる夏景色とがふたたび呼応していくのだ。
同様に、6月14日におひつじ座から数えて「調整」を意味する6番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、心身がおのずと研ぎ澄まされるよう、活動環境に何かとリニューアルをはかっていくべし。
「広大な宇宙空間の海と、等しく広大な内面の陸」
冒頭の言葉は三島由紀夫の『美しい星』に出てきたもの。この物語は、埼玉県飯能市に住む大杉家の家族4人がそれぞれ円盤を見て、自分が別の星からやってきた宇宙人であるという意識に目覚めるという、三島作品には珍しい、というか唯一のSF小説となっています。
そうして日本の家父長的文化から距離を置きつつ、人間の肉体をもつがゆえにどうしても矛盾や危うさを持ってしまう「異星人」の視点から、地球を救うためのさまざまな努力が重ねられていくのですが、その結末では一家の父親である重一郎が癌で危篤に陥ります。
間もなく死を迎えんとする中で、「宇宙人の鳥瞰的な目」をもつ不死性を象徴する存在であった重一郎が、突如として「死」を意識するようになり、こう述べるのです。
生きてゆく人間たちの、はかない、しかし輝かしい肉を夢みた。一寸傷ついただけで血を流すくせに、太陽を写す鏡面ともなるつややかな肉。あの肉の外側へ一ミリでも出ることができないのが人間の宿命だった。しかし同時に、人間はその肉体の縁を、広大な宇宙空間の海と、等しく広大な内面の陸との、傷つきやすく揺れやすい「明るい汀(みぎわ)」にしたのだ。
今週のおひつじ座もまた、必滅と不死のはざまで、さまざまな思いや記憶に触れていくことになるでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
水遊び