おひつじ座
物語の人間化へ向けて
謎を育てる
今週のおひつじ座は、『天空の鏡を割りて五月くる』(辻美奈子)という句のごとし。あるいは、自身が向き合うべき“謎”との関わり方を模索していくような星回り。
作者は、この句が収録された句集を出した当時、高校生や大学生になる子どもがいた女性俳人。当然この句も、幼かった子どもが、まだひとり立ちする前の時期に詠まれたものなのでしょう。
朝、子どもを起こすためにカーテンを開けたとき、あるいは、家族の洗濯物を干していて、ふと空を見上げたとき。作者のもとに5月はやってきた。それはどこかこちらをハッとさせるようなものを感じさせる日差しの強さを伴っていたのかも知れません。
育児をめぐる価値観や世の風潮は時代とともに大きく変わってきましたが、考えてみれば子育てほど誰かが誰かの人生に決定的に介入する機会というのは他になく、その意味で、下手をうてば子どもに背中から刺されるようなことになっておかしくないはず。
作者が特別に子育ての苦労をほのめかしていた訳でありませんが、子を育てる親の側というのは、本来みなそれほどの問いや謎を突きつけられていくものなのではないでしょうか。
「天空の鏡を割りて」という措辞には、どこか予定調和的な展開や表層的なきれいごとだけでは済まされない領域へと、一歩踏み込まんとしている作者の心の動きが感じられます。
5月1日におひつじ座から数えて「もののはずみ」を意味する11番目のみずがめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ここぞという瞬間には、ごまかしたり目をそらしたりする代わりに、みずから一歩踏み込んでいくべし。
すくい取るべきものを見出すために
子育てに限らず、起こった瞬間においては、その価値や意味が分からない出来事があります。それは人の心の奥深くに入り込み、長い時間をかけてかたちをなし、再び意識の表面に浮上してきたところで、ようやくすくい取られていく。
それはなんとなく家族の中で自分だけ秘密にされたことだったり、たまたま目にしたテレビのワンシーンをめぐる一言だったり、人によってまちまちですが、私たちのこころには大抵はどこかでそういうものが2、3個ひっかかっていては、すくい取られる瞬間を待っているのではないでしょうか。
作家の須賀敦子の文章はどこか、そんなかすかな記憶の底からそっとすくい取られたようにして綴られていますが、例えば『霧のむこうに住みたい』というエッセイ集の中に出てくる、次の箇所などは今週のおひつじ座の課題を簡潔に示しているように思います。
「線路に沿ってつなげる」という縦糸は、それ自体、ものがたる人間にとって不可欠だ。だが同時に、それだけでは、いい物語は成立しない。いろいろ異質な要素を、となり町の山車のようにそのなかに招きいれて物語を人間化しなければならない。
おひつじ座の今週のキーワード
ときどき縦糸を思い起こすこと