おひつじ座
地殻変動の前触れ
何かが再浮上してくる動き
今週のおひつじ座は、「なつかしい」という言葉のごとし。あるいは、共感覚的な特質を備えた記憶イメージがにわかに活発化していくような星回り。
誰しも「はじめて見知ったことなのに、なつかしい」と感じて、不思議な心持ちになった経験が1度や2度はあるはず。『日本国語大辞典』によれば、「なつかしい」という言葉は「なつく」という動詞が形容詞化したものであり、もともとはエサをもらったノラ猫が人に「なつく」ように、いま目の前に存在する対象に「心が惹かれ離れたくないさま」を表す言葉であったのが、やがて過去や離れているものへの想いとして転用されてきたものなのだそうです。
つまり、一度しか接したことのないような疎遠な対象であったとしても、「心が惹かれ、離れたくない」と想わされたのなら、それは「なつかしい」のです。中でも、現実には失われてしまったものは、記憶の再浮上を通してのみ出合うことができますから、格別になつかしさを想起させられ、結果として冒頭のような印象を私たちに与えることになるのかも知れません。
質の高い記憶イメージは心の中で「動く」。音も出すし、匂いや味もする。触れれば当然、あたたかかったり冷たかったりする。いわば五感を総動員した共感覚的な特質を具えているのだ。(桑木野幸司『記憶術全史―ムネモシュネの饗宴―』)
12月20日にはおひつじ座から数えて「失われたもの」を意味する12番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、遠くもあり、近くもあるような、そんな不思議な距離感を覚える対象に、おのずと直面していきやすいでしょう。
「俄然として覚むれば」
中国の古典に荘子の『胡蝶の夢』という有名な話があります。曰くむかし、自分が蝶になった夢を見た荘周という男性の話で、楽しく飛びまわる蝶になりきって、のびのびと快適にしていた。ところが、ふと目が覚めてみると、まぎれもなく荘周である。
いったい荘周が蝶となった夢を見たのだろうか、それとも蝶が荘周になった夢を見ているのか。荘周と蝶とは、きっと区別があるだろう。こうした移行を物化(万物の変化)と名づけるのだ、と。
ここで注目したいのは、「俄然として覚むれば(ふと目が覚めてみると)」という、荘周と蝶というまったく異なる次元への切り替わりの瞬間であり、次元の境い目の体験です。
そこでは2つの次元が互いに相対化しあっており、今ここにいる自分が自分であること、それは今ここに生きている「現実」が現実であることの自己同一性、安定性が揺るがされる体験に他なりません。
そして、その地殻変動にみずからも巻き込まれつつも、それを外側から傍観することが許されず、あくまで“内側”から体験するしかないのです。こうした現実の自己同一性の揺らぎで、その構成が変わっていく際の表出のひとつが、先の「なつかしさ」でもあるのではないでしょうか。つまり、なつかしさを感じれば感じるほど、その人はいまの現実を内側から変えていっているのだとも言えます。
今週のおひつじ座もまた、そうしたわたしとわたし自身のあいだで暗黙の何かが働いているような感覚を思い出していくことができるかも知れません。
おひつじ座の今週のキーワード
自分が別のもう一人の自分にそっくり入れ替わっていく