おひつじ座
資本主義からの裏ヌケ
労働の外へ
今週のおひつじ座は、『葉ざくらや人に知られぬ昼あそび』(永井荷風)という句のごとし。あるいは、余分な力や緊張がふーっと抜けていくような星回り。
掲句の前書きには「向島水神の茶屋にて」とあります。向島は、桜の名所として知られる隅田川の堤の近くであり、作者はそうした光景を遠目に見ながら「茶屋遊び」、すなわち酒と女に耽溺(たんでき)していたのでしょう。
桜の季節も終わって、葉桜のまぶしい昼である。多くの社会人にとっては労働にいそしむ時間帯ではありますが、学生時代から遊興好きだった作者の場合、歳を追うごとにその度合いは増していき、ここではもはや社会の外に出てしまっているわけです。
視点を茶屋へと翻せば、葉ざくらのすき間、さわやかな陽光をしりぞける家屋の薄闇の奥には、男女がうごめいている。そうした何の役にも立たない、生産性だとか有用性といった文脈からは程遠い空間で交わされる密やかな会話こそ、作者にとってなによりも不可欠な魂の糧だったのかも知れません。
5月6日におひつじ座から数えて「息が尽きる場所」を意味する8番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、荷風ほどではないにせよ、少なからず“社会”や“世間”の外に出ていく手立てを講じてみるべし。
柳宗悦の『東洋的解決』
美術評論家で民芸運動の父として知られる柳宗悦は、かつて日本の芸術家は「どれほどの値で買ってくれと主張したことがない。(…)店の方では、こんな謙虚深い作家のものは、なるべく有利に作者に酬いるようにすべきだと考え、店の利益を出来るだけ少なくして、作家たちに酬いる。それで価格は双方の権利の主張の妥協点できまるのではなく、双方の無欲と感謝との接点できまる」(『東洋的解決』、1916)と書いていました。
現代の自由主義経済において一般的な、高く売りたい作り手と、安く買いたい店が妥協するという「西洋での解決」とは異なるものとして、柳はそれを「東洋的解決」と呼び、後者の方が「もっと互の幸福を約束する」というのです。
ただ、これは理屈の上では理解できても、いざ実行しようとすると現代人の多くは強い抵抗を感じるはずです。というのも、資本主義社会では労働と賃金は固く結びつけられており、労働者は自分を商品として資本家に売っていると錯覚するので、次第に人間としての尊厳をひどく傷つけられてしまうのです。
その意味で、今週のおひつじ座もまた、まずは収入を得て生計を立てることと、世のため人のために働くことを別個のことして切り離してみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
無欲と感謝との接点