おひつじ座
迷宮化をほどこす
驚きたい生きものとしての人間
今週のおひつじ座は、同一性からのささやかな離脱の試み。あるいは、「すべての情緒の中の第一のもの」を取り戻していこうとするような星回り。
デカルトが「すべての情緒の中の第一のものである」と呼んだ驚きの情について、日本の九鬼周造は『驚きの情と偶然性』のなかで、次のように述べていました。
驚きという情は、偶然的なものに対して起る情である。偶然的なものとは同一性から離れているものである。同一性の圏内に在るものに対しては、当り前のものとして驚きを感じない。同一性から離れているものに対して、それは当り前ではないから驚くのである。
つまり、もし運命というものが「偶然の内面化」であるとすれば、もし驚く力が弱まっていけば私たちのなかで運命という概念自体が雲散霧消してしまうのです。九鬼はまた、こうした外に与えられた大きな偶然を意志活動の枠内に引っ張りこむことによって作り出される「運命」をめぐって、占いの観点に言及して「ギリシャではエンペドクレスの宇宙論にあって、偶然の概念が重要な役割を演じている。すべての事物は、地、水、火、風の四元素が偶然『出逢った』から出来るというのが根本思想である」とも述べています。
九鬼の言い方を借りれば、何を見聞きしても驚かなくなったという状態は、こうした現実を構成する基本的な要素同士の「出逢い」に鈍感になってしまったり、そもそもお決まりの組み合わせでしか物事を捉えられなくなってしまったことの証しに他ならない訳です。
その意味で、28日におひつじ座から数えて「胸の鼓動の高まり」を意味する5番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、人生に新たな「出逢い」や「驚き」をもたらしていくことにいつも以上に貪欲になってみるといいでしょう。
大人のかくれんぼ
そういえば、ひと昔前の街や路地というのは、ひとつひとつの家がそれぞれに異なっていたり、家と家のあいだによくわからない空間や隙間が存在したり、横丁も非常に入り組んでいて、鬼ごっこやかくれんぼが自然にできたりしたものでした。しかし、家屋構造も何とかハウスとかいって既製のものばかりが立ち並ぶようになり、都市計画で整備された結果、家にも街にもある種のラビリンス(迷路)がなくなってしまったなと思うことがあります。
じゃあその代わりに何が起きているかというと、大人になってからUFOを見たりして、<未知との遭遇>をする訳です。ただ、そうしたUFOというのは一種のデジャヴュ(既視感)体験であって、既知のものとつながることで未知が帰ってくるようになっている。
それは思春期のやり直しでもあって、若いころに世の中からの隠れ場所を見つけることを周囲や時代に許されなかった人ほど、後半生にいたって改めて合意的現実(母船)からインキュベーション(潜伏)しようと、好き好んで“うさんくさい領域”に入っていく。そういう意味では、昔の人はそういうことをちゃんと分かっていたからこそ、家を建てるときに、わざわざ便所や納戸を生活の中心から距離をあけて設置していたのかもしれません。
それと同様に、今週のおひつじ座もまた、そうした未知を呼び込むための儀式としての、大人のかくれんぼに興じてみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
世間からいっとき隠れる