おひつじ座
どんぐりころころ
菩薩が菩薩たる由縁
今週のおひつじ座は、他者を通じて自分自身を見出した男のごとし。あるいは、自身のアイデンティティーを見知らぬ人の夢によって決めてしまうような星回り。
中世には、近代的な「個の自立性」という発想に囚われない発想が豊かにありましたが、13世紀に成立した説話物語集『宇治拾遺物語』には、次のようなお話が収録されています。
信濃国の筑摩という町に薬湯があり、あるとき近くに住んでいる男が夢のなかで「明日正午に観音様が髭をはやし馬に乗った三十歳くらいの武士の姿をして湯あみに来られる」という声を聞き、目を覚ましてから人びとにその夢について話し、多くの人が温泉で待ち構えていたところ、はたしてその通りの格好をした部式が現れたという。みなが平伏していると、武士は驚いてみなに何をしているのか尋ねたけれど、誰も返事をしなかった。ついにみなの中の僧侶が理由を説明すると、武士は狩りをしているときに落馬したのでやってきただけだと語ったにも関わらず、みなはこの武士を拝み続けた。しばらくの間、男はこの温泉にとどまっていたが、やがて「自分は本当に観音様だ。自分は法師にならないといけない」という考えが浮かんで、武器を捨て、僧侶になってしまった。それを見て、人びとは大いに心打たれたという。
このお話のポイントは、以前は武士であった男が有名な僧侶になったとか、多くの人を救ったといった妙なヒロイズムに陥っていないところです。男は単に普通の僧侶なのであり、それこそが菩薩が菩薩たる由縁なのではないでしょうか。
同様に、9月10日におひつじ座から数えて「相互浸透」を意味する12番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自分自身の意志や考え以外のところで自分が決定づけられていく感覚を大いに味わっていくことになるでしょう。
鈴木重子さんに訪れた転機
名門ブルーノート・ニューヨークに、日本人ヴォーカリストとして初めて出演したヴォーカリストの鈴木重子さんが、インタビューの中で面白いことを言っていました。彼女は東大卒の秀才としても知られ、少女時代は勉強に明け暮れる日々だったのだそうです。
私は毎日、明日のために生きていた。明日の試験のために勉強する。明日の何かのためにこれをやる。でも先生たちは、いま音楽をやっているのが幸せと言っておられた。その違いって大きい。こんなに充実して、こんなに生き生きしている人がいるとは思ってもみなかった。それまで私は、今日やりたいことをやって、明日どうするんだろうって思ってたんですよ。「今日やりたいことをやるとハッピーだから、明日もやりたいことができる」っていう循環について考えたことがなかったんですね。それを気付かせてくれたのがこの二人だった(「weekendインタビュー―MSNピープル」)
彼女はこうして「今後の抱負を考えるより、その日のこと、今この瞬間のことを大事にする生き方」を体得したそうですが、これはアリとキリギリスの寓話のキリギリスのようなその日暮らし的な刹那主義と一見すると似ていますが、実際にはまったく異なります。
その意味で、今週のおひつじ座もまた、この瞬間、瞬間を大切に生きていくなかで、自然に自分のところにやってくるものを受け止めていくべし。
おひつじ座の今週のキーワード
自分を包んでいる何か大いなるものに身を委ねてお任せすること