おひつじ座
じんわり広がる、それを受け取る
分かりやすい快楽ではなく
今週のおひつじ座は、「冬河原独りになりに来てふたり」(藤井あかり)という句のごとし。あるいは、ひとりでに滲み出ることで初めて本当の気持ちを自覚していくような星回り。
冬の河原というのは、とても寂しい場所です。作者はそこに日常の忙しさから抜け出し、独りに浸りきって、自分自身と向き合うためにやってきた。実際には、なんとなくボーっとしたくて、無意識に足が向いたのでしょう。
ところが、そこで次々と思い浮かんでくるのは特定の誰かとの想い出な訳です。あそこに行ったときは楽しかったなとか、一緒に食べたあの店のディナーは最高だったとか、車のなかでの何気ない会話が嬉しかったとか。
恋人なのか、夫婦なのか。あるいはもっと微妙な関係の相手の可能性もありますが、いずれにせよ、想い出の中でかたわらにいた相手の不在がいよいよ際立ってしまった。そこで作者は……という、滲み出る心情を詠った句なのでしょう。
人はそうして自分の本当の気持ちを知るために、ときに孤独になろうとする生き物なのかも知れません。同様に、18日におひつじ座から数えて「心の奥底」を意味する4番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、掲句のように「独り」になる時間と場所を確保してみるべし。
星は優しく静かに人を試す
天文民俗学者の野尻抱影(のじりほうえい)は、かつて原爆忌に寄せた文章の中で、「人間が異常な事件に遭遇した時に、いつも感じるのは、月や星が冷厳なことである」と述べ、個人的な経験として「私も娘が亡くなった前夜、四方空襲の火の空で、いつもと変りなく輝いている星に強い憤りを感じた」と書いています。
地上のことなどお構いなしとも言わんばかりに、空が澄みわたってさえいれば、そこには必ず月がけろりと浮かんでくる。星は無情なり。しかし、それは星がこちらに都合よくその顔を変化させたり、過保護な親のように甘やかし、追従してくれないというだけで、星はいつも変わらぬ調子で囁きかけてくれているのではないでしょうか。
だからこそ、星は思い通りにならぬことの中にも、受け取り学ぶべき事柄があり、そこにいままで見えていなかった豊かな世界が広がっていることを、いつも静かに教えてくれているのだと思います。
今週のおひつじ座もまた、自分が本当に必要としているものを受けとっていくだけの成熟を遂げているのか否か、図らずも浮き彫りになっていく瞬間が訪れるはず。
おひつじ座の今週のキーワード
星無情