おひつじ座
隠れた水脈の浮上
汝が眼吻はなん
今週のおひつじ座は、「つぶらなる汝(な)が眼吻(す)はなん露の秋」(飯田蛇笏)という句のごとし。あるいは、鋭く感情を切り出していくような星回り。
ずいぶん危険な句である。愛するあまりに、そのまん丸っこい眼をしている女の眼を接吻してやろうというのだから。
最後の「露の秋」というのは、そこに大した意味がある訳ではないだろう。ただ上の十二文字だけでは、あまりに過激で世界が急に狭くなってしまうので、どこか清澄な響きのある「露の秋」という語を添えることでそれを救っている訳だ。
これは作者自身の実感を詠ったというより、小説的な着想を俳句に持ち込んで作った一句なのだと思うが、それにしてもこういう鋭い感情を持って来ておいて、平然と「露の秋」などと締めてみせるところからして非凡と言わざるを得ない。
あるいは、日頃からそうした深い感情を少しずつ秘めているがゆえに、空気中に含まれていた湿気が凝結して露となった光景をみて、不意に最初の十二文字がすらすらと出てきたのだという線もあるかもしれない。
11月5日におひつじ座から数えて「深い感情」を意味する8番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、心の奥底に少しずつたまってきた感情や衝動が不意に飛び出してきやすい頃合いだろう。
自由な海に島ふたつ
思い返すと10年前の東日本大震災の後、日本社会ではやたらと「絆」という言葉が使われ、取り上げられたことがありましたが、そうして上から横から強制的に押しつけられた時に、これほど嫌な言葉も他にないのではないでしょうか。
なぜこれほどまでに嫌悪を感じるのかを考えてみると、絆というものが多分に陸地的な発想のものだからかも知れません。つまり、橋をつくって、孤立した島(人間)同士をがっりちと結んでしまいましょう、安全な陸地を拡大していきましょう、と。そうやって明治以降の東京は、わずかに残っていた水路もつぎつぎに暗渠にして、街そのものを巨大なコンクリートのかたまりのようにしてきました。
島のように孤立していたとしても、ときどき行ったり来たりする舟が出ていれば、それで十分じゃないか。そんな海洋民的な発想さえ持てなくなってしまったがゆえに、「絆」というの言葉を陳腐にしか使えなかったのだとも言えます。
その意味で今週のおひつじ座は、島と島、人と人との間に広がる海を、もう一度発見しなおしていくことが隠れたテーマなのだとも言えるでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
大陸の論理に対する水脈の感性