おひつじ座
水は低いところへ流れゆく
イニシエーションの感覚
今週のおひつじ座は、「下と中」の体験のごとし。あるいは、身体を伴わぬ俯瞰からのみ世界を体験ちがちな現代人が忘れてしまったものを取り戻していこうとするような星回り。
ファンタジー作家・恩田陸の『上と外』の主人公である日本人兄妹は、ヘリコプターから放り出されて密林に落ち、視界ゼロの緑の世界、「上」を失った世界を、子供ながらアウトドアの技術を駆使して通り抜け、密林の中に立つマヤの古い神殿の地下迷宮で行われる「成人式」に参加を余儀なくされていきます。
それは「王」と呼ばれる一頭のジャガーが徘徊する迷路を、狭い横穴や床近くの隙間の通路などあちこちに身を隠しながら、三日間生き延びるという過酷な試練でしたが、それをくぐり抜ける中で二人はこんな風に思うようになるのです。
兄の練は
人に見られている自分でもなく、自分が考えている自分でもなく、ただ一歩ずつ壁を登ってゆく、物理的にも精神的にもぴったりとずれることなく重なり合った、まさに等身大としか言いようのない、そのまま一人きりの自分がいるのだ
と感じ、妹の千華子は
どんな目に遭っても、前進するためには頭を切り替えて考えることが大事なのだ、落ち込んだり悩んだりしている時間があるというのは贅沢なことなのだ、ということが身体に刷り込まれていたのである
と。
10日におひつじ座から数えて「裸と本音」を意味する4番目のかに座で新月を迎えていくあなたもまた、練と千賀子の兄妹のように「下と中」からこそ自分自身やその生きるべき現実を捉えなおしていくことがテーマとなっていくでしょう。
ゆらぎとしての私らしさを実感していく
いつからか私たちは「身を固める」ことで大人となり、鉄の玉のような強固な自己同一性を獲得してこそ、どんな困難にもつぶれることなく、与えられた使命を全うしていくことができるのだと信じて疑わなくなりましたが、今週のおひつじ座はそうした近代的信仰が大いに揺らいでいきやすいタイミングとも言えるかもしれません。
こうしたタイミングでは、ともすると<私>はギリシャ語でいう「プネウマ」のような空気や息吹、ゆらめき、流れのようなものとして感じられやすくなっていくでしょう。
そこであなたは一抹の心許なさを覚えると同時に、安定した状況や人間関係に居心地の悪さを感じたり、ここではないどこかへ吹き去っていく風のように、空気をかき回していきたくなるはず。
その意味で、今週は「恐れ」や「我慢」を禁句に、どこまでも素直になって心をのばしていくべし。
おひつじ座の今週のキーワード
よどみなく生きていくために