おひつじ座
山、川、わたし
五月富士の佇まい
今週のおひつじ座は、「どこか隙ある人のごとくや五月富士」(植松とし夫)という句のごとし。あるいは、社会性のまといをそっと脱ぎ去っていくような星回り。
五月の富士山は七、八合目まで残雪を残しつつも、そのふもとには新緑の緑が広がっていきます。その対照的な景は絶妙ですが、作者はそれを冬富士の厳しさに比べて、どこか放心したような安穏な印象を受けたのでしょう。
さながら、常日頃は一部の隙も見せない完璧な鉄仮面の如きひとが、温泉に入ったあと浴衣に着替えてくつろいでいるような、その横顔を垣間見たような心持ちになったのかも知れません。あるいは、正装姿の貴婦人がソファーにもたれて、ついまどろんでいるとか。
それで、つい気を惹かれて足を留めたり、目線がいったりしてしまう。案外、そういうところからご縁というのは始まったり、繋がったり、結ばれたりしていくもの。
なぜなら、そういう「ふと」や「なんとなく」とってしまう行為というのは誰からも強制された訳ではなく、純粋な出来心や浮気心によっているのですから。
20日におひつじ座から数えて「極私的関心事」を意味する5番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ひょんなことからそうした“内発的”な行動に突き動かされていくことがあるかも知れません。
「ムーンリバー」
ときどき、この世界で起きた何もかもが夢なんじゃないか、そんなふうに思えてくることはないでしょうか。けれど、そんな時に見上げた夜空に浮かぶ月を見ていると、そのあまりの生々しさに心打たれて、これだけは間違いなくリアルなんじゃないかと思えてくる。他の何もかもが信じられなくても、これだけは信じてもいいのかも知れないと。
「ムーンリバー」を作詞したジョニー・マーサーも、おそらくそんな感覚を思い浮かべながら歌詞を書いたのではないかと思います。以下は曲の出だし部分の抜粋です。
Moon river,wider than a mile(ムーン・リバー、この広く果てしない川よ)
I’m crossing you in style some day(いつの日か、あなたを颯爽と渡ってみせる)
Oh,dream maker ,you heart breaker(ああ夢を見させもすれば、心を砕きもする)
Whereever you’re going I’m going your way(あなたが行くところならどこへでも、私はついて行く)
ここでは世の中の基準や、よいとか悪いとか決めつけられ、頭で意味づけられる以前のナマの世界に生きているもう一人の<私>として「ムーン・リバー」が登場してきているように思えます。今週のおひつじ座もまた、そんな川の流れの一部となったつもりで過ごしてみるといいでしょう。
今週のキーワード
純粋な出来心を発露させていくこと