おひつじ座
作り笑いをやめること
普段着の自分へ
今週のおひつじ座は、「雀よりやすき姿や衣がへ」(広岡雪芝)という句のごとし。あるいは、心理的なお荷物をそっとまとめて捨ててしまおうとするような星回り。
作者は江戸時代中期の人で、芭蕉の弟子。旧暦時代は五月五日に裏地のついた袷(あわせ)から風通しのいい単衣(ひとえ)へと更衣(ころもがえ)をしていましたが、その雰囲気を表わすのに「雀より気安い姿だ」と雀を引き合いに出したところがおもしろい一句。
最近は着物姿で出かける人も雀の姿も、ともにあまり見かけなくなってしまいましたが、確かに鶴のように正装姿を思わせる鳥に比べ、雀は気楽な普段着を連想させてくれます。
ただし、人間にとって一番身近な鳥である雀は、人間が近づくとすぐに逃げ、飼うと死んでしまうとも言われています。彼らも人間と同様、その多くは群れで行動しますが、だからこそ身軽さや距離感が必要不可欠なのかも知れません。
作者は酒造業も営む忙しい人でしたから、そこには身も心も軽くなって、自分も雀のようにうまく世間と距離をとれたらという願いも込められていたのではないでしょうか。
5月4日におひつじ座から数えて「社会生活への望み」を意味する11番目のみずがめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、今の生活にどんな不満を抱えているのか、またそれを晴らすには何が必要なのかが浮き彫りになっていくことでしょう。
天然自然の枝ぶりを活かす
人生の更衣という風に捉えてみると、向田邦子さんの文章の一節が思い出されてきます。
花を活けてみると、枝を矯(た)めることがいかにむつかしいかよく判ります。折らないように細心の注意をはらい、長い時間をかけて少しずつ枝の向きを直しても、ちょっと気をぬくと、そして時間がたつと、枝は、人間のおごりをあざ笑うように天然自然の枝ぶりにもどってしまうのです。よしんば、その枝ぶりが、あまり上等の美しい枝ぶりといえなくとも、人はその枝ぶりを活かして、それなりに生きてゆくほうが本当なのではないか、と思ったのです。
これは彼女が何の不自由もない社長秘書としての勤めを辞め、求人広告に応募して映画雑誌の編集記者となった経緯について書いた『手袋をさがす』というエッセイの中の一節で、彼女はそれまで「何の不自由もない暮らし」への不満を隠していかにも楽しそうに見せかけていただけだったのだそうです。
自分本来の枝ぶりを見失っている人は多いですが、彼女のように無言実行を通して人生を変えることのできる人は少ないでしょう。今週のおひつじ座もまた、そんな彼女を少しでも見習って、ひとつ自分の枝ぶりを活かす道を見据えていきたいところです。
今週のキーワード
枝を矯めることのむつかしさ