おひつじ座
静かに、強く
孤影ひとつ
今週のおひつじ座は、「いのち一つわが掌(たなぞこ)に寒玉子」(高橋淡路女)という句のごとし。あるいは、強いものを内にもった静けさを湛えていくような星回り。
「寒卵(かんたまご)」は冬の季語。古来より食べ物に乏しい冬には、栄養価が高く保存のきく鶏卵は珍重されてきましたが、掲句でてのひらに置かれた「寒玉子」は、そうした文脈以上の重さをもって、ずしんとそこに納まっています。
作者は結婚した翌年に夫を亡くし、その次の年に子供が生まれ、それ以後を一人の子の成長と俳句を心の支えに生きた人。その身辺の孤影と憂愁がどれほどのものであったのかは、想像するだに恐ろしいものがあります。
けれど、彼女はそんな「以後の生」を生き切った。そして、そうした生き様が乗り移っているかのように、彼女のつくる俳句は気の利いた表面だけの技巧にはまったく流れず、つねに深いものに触れようとしているように感じられます。
2019年から2020年へと歩を進めていくおひつじ座もまた、掲句のような「これさえあれば生きていける」という重さと深さを湛えつつ、ただ黙々とおのれの道を究めていきたいところです。
海の老人
掲句の作者と似た重さと深さを感じさせる人物として、他に例えばヘミングウェイの『老人と海』に登場する漁師の老人サンチャゴが挙げられます。
物語の最期には見事巨大カジキをつり上げ、その成果(骸骨になってしまいましたが)をもって港に凱旋してきました。それはちょうどその子供からみた掲句の作者と同じく、彼に憧れを抱き、みずから助手を買って出た少年にとっても、さながら聖人を描いた宗教画のごとく忘れがたい光景になったはずです。
じつは『老人と海』には、老人サンチャゴをどこかイエス・キリストと二重写しに描く意図を明らかにしているような表現がいくつか出てきます。出港から沖合での巨大カジキとの死闘を経て帰港するまでの期間が3日間だったのも、「死と三日後の復活」と重ねられている訳です。
あなたの中の不器用にしか生きられない部分が、何に対して、何のために命を賭けようとしているか。その動機付けに応じた「復活」はどんなものとなるか、今週は自分なりに思い描いてみるといいでしょう。
今週のキーワード
純粋であること