おひつじ座
世界観を深めるということ
生きた宇宙をつくるため
今週のおひつじ座は、宮沢賢治における『銀河鉄道の夜』の位置づけのごとし。あるいは、自分が信じることを誰かに伝えていこうと苦闘するうちに、そこで新たなる何かが生まれていくような星回り。
『銀河鉄道の夜』は宮沢賢治の代表作であり、架空の鉄道にのって死後の世界を象徴する夢の中で宇宙に行った大人の童話として読むことができます。
しかし、宮澤賢治自身としては自分の作品によって熱心に信奉していた法華経の教えを広めたいという志を持っていました。とはいえ、ここまでが文学でここからは布教と区別できるように書かれている訳ではなく、作品全体から現われ出てくるものが宗教的であり、時に宇宙的でもあるところが賢治作品の最大の特徴でした。
『銀河鉄道の夜』は特にその傾向が顕著であり、死ぬまでに何度も何度も手を入れ直し続けましたが、これも『農民芸術概論綱要』に出てくる「永久の未完成これ完成である」という言葉の裏に、万物は劫から劫へ輪廻転生するものであり、死もその過程に過ぎないという賢治の仏教観であり世界観があったことは明らかです。
これは例えば、乗客がみんな途中で降りていくなか、ただ主人公のジョバンニだけがどこまでも行ける切符を持っていて、永久に降りないという筋立てにおいても、賢治の輪廻転生についての考え方が現われているように思います。
つまり、賢治はもともと自分のことを宗教者だと思っていたのに対して、書き遺された作品はそうした領域を超えて優れた文学になっていたのです。これは、彼が書き続けることで伝えようとしなければ、決して起きえなかったことでしょう。
27日(水)になったばかりの深夜に、おひつじ座から数えて「宗教」や「世界観」を意味する9番目のいて座で新月が形成されていく今週のあなたもまた、自分の考えを人に伝えていかんとする中で、自分なりの世界観を深めたり、磨いたりしていくことがテーマとなっていきそうです。
イニシエーションとしての地獄下り
同じく宗教的現象の根源的意味について探究していった宗教学者ミルチャ・エリアーデは、祖国ルーマニアに戻れず異国の地で厳しい日々を送っていたある日の日記の中で、次のように書いています。
「人は自分が実際に地獄の迷宮中で迷っているのだと悟ればすぐ、ずっと以前に失ったと思い込んでいた精神の力が、新たに十倍になるのを感じるのだ。その瞬間にあらゆる苦しみはイニシエーション(新しい出発)の<試練>になる」(『エリアーデ日記 旅と思索と人』)
彼の作りあげた宗教理論は、まさに彼の生に直結していたがゆえに極めて独自のものとなりえた訳ですが、その背後にはおそらく幾度となく繰り返された失敗、苦難、憂鬱、絶望の連続とそれを乗り越えてきた日々があったのでしょう。
今週のあなたもまた彼らのような明晰な意志をもって、精神の力を奮い起こしてみてください。この世もまた地獄なのだと、はっきり意識することで。
今週のキーワード
イニシエーションの向こう側にこそ「世界観」は開けゆく