みずがめ座
人間中心主義からはみ出るために
虫にも鳥にも
今週のみずがめ座は、『この世にし楽しくあらば来(こ)む世には虫にも鳥にも我はなりなむ』(大伴旅人)という歌のごとし。あるいは、細かいことは気にせず大らかに生きていこうとするような星回り。
大意としては「この世で遊び呆けていたら、来世では畜生道に落ちるなんて坊さんが言われるが、この世さえ楽しかったら、来世は虫にでも鳥にでも私はなってしまおう」という内容です。
ここで留意しておきたいのは、「虫」や「鳥」といった人間以外の生物を挙げていることから分かるように、「楽しい」状態というものが、ここではすなわちこの世的なしがらみだとか、未来や過去にひもづく責任や義務を背負わされる「苦しい」状態と対置されるように想定されており、そうした世俗的ないし妄想的苦しみから解放されているという意味が込められているように思われます。
また漢字の「楽(旧字 樂)」は、白川静の『常用字解』によればもともと「柄のある手鈴の形」で、「舞楽のときにこれを振って神をたのしませるのに使用した」とあり、さらに「また病気のとき、シャーマン(神がかり状態となって予言や病気を治すことなどを行う巫女)がこれを振って病魔を祓った」のだそうです。
大将軍という大任を任され、遠征に従事したこともある大伴旅人だからこその説得力ではありますが、9月22日にみずがめ座から数えて「旅」を意味する9番目のてんびん座へ太陽が移っていく(秋分)ところから始まる今週のあなたもまた、人間的な小ささや細かさを取っ払ったところで「楽しむ」姿勢が必要となっていくはず。
『僕は始祖鳥になりたい』
このフレーズは、宮内勝典さんが1998年に出した小説のタイトルで、スプーン曲げで有名になった清田益章をモデルにした主人公の超能力者が、アリゾナの巨大なクレーターを訪ねていく話なのですが、そうした物語のディテール以前に、もうそのタイトルだけで奥深いメッセージとなっているように思います。
始祖鳥というのは恐竜と鳥のあいだをつなぐ古代生物ですが、ここでは自分たち人間が未来に鳥であったり恐竜になったりという変形可能性について暗示されている。つまり、動物になることは退化ではなくて、もっと進化することだという可能性がここで大胆にかつ抒情性をもって語られている訳です。
このあたりの話は、鎌田東二とハナムラチカヒロの共著『ヒューマンスケールを超えて―わたし・聖地・地球―』でも詳しく論じられているのですが、要はある種の先祖返りをするうちに、既存の在り方とは異なる意識や身体性へと変容していく。それが脱・人間主義的発想の原動力にもなっていくと。
その意味で、今週のみずがめ座もまた、これから先を長い目で見た時に大事にしていくべき価値観や、地上での在り方そのものの見直しを迫られていくことになるかも知れません。
みずがめ座の今週のキーワード
退化ではなく螺旋